2023/03/27
伊藤正子の昔話を読む-兄弟物 忠兵衛と忠太郎②-

天の川を駆けるISS
伊藤正子の語る「忠兵衛と忠太郎」は如何でしたか。結構丁寧に読めば,時間もかかりますね。
伊藤正子の「忠兵衛と忠太郎」は,文字数にして3281文字で,ゆっくり読んでも15分はかかります。内容描写も的確で,丁寧に語られ,構成の緻密さが感じられる話になっています。この話に限らず,伊藤正子の語りは,丁寧で細部まで行き渡った背景まで語られ,聞く者に寄り添ってよく理解されるように語られていきます。
今回の「忠兵衛と忠太郎」について比較してみても,伊藤正子の「忠兵衛と忠太郎」は,3281文字,永浦誠喜は,1395文字となっており,伊藤正子の話は,永浦誠喜の語りの2.5倍弱に達しています。
伊藤正子は,よふさんの娘であるよしのさんを母として昔話を聞いてきました。つまり母から娘へ,そしてまたその娘へと三代にわたる母からの直伝という伝承経路です。普通は,昔話も経由地(人)が多くなるほど変異は進む確率は高くなるでしょう。しかし,むしろここで注目したい点は,伝承経路が,女性同士の空間を伝っているということ。女性ならではの社会環境を受けながら話も進化していったことが考えられます。女性として,嫁に行って家庭を持つこと,母になること,子どもを育てる事などの社会環境を受け入れて生きる女性の智恵が,昔話の伝播と重なり合いながら語られていたということです。語り手は,常に昔話を聞いてくれる相手に(男性だったら男性,女性だったら女性)配慮しながら,相手の幸せを願いながら語っていたことがこのことから分かります。
その語り手と聞き手の間に生まれる,かけがえのない空間が,相手を大切にしてあげる配慮に満ちていたのです。
それでは,今度はよふさんから内孫として直接聞いてきた永浦誠喜さんに,伊藤正子さんと同じ「忠兵衛と忠太郎」を語っていただきましょう。聞いた後で,二人の「忠兵衛と忠太郎」を比べて見て下さい。あれっ。と気付きます。
