2022/05/01
伊豆沼読書会4月ありがとうございました

萌え色さんぽ道 今日5月1日撮影
4月30日毎月最後の土曜日に行われている伊豆沼読書会が昨年12月以来やっと再開できた。
まず「鳥と文学-雁の話-」2021年シーズンも18万羽のマガンが訪れたこの伊豆沼・内沼で雁の話は必須の話である。雁の話では漢書にある「蘇武」が雁に手紙を託したことを中勘助の「鳥の物語」から解説し,そして「雁風呂」の話。この雁風呂の話は青森の十三湊や外が浜に残っているというもっぱらの話だが確かめてみると,そのような話や伝説は青森にはなく,中国山西省あたりの話が流れ着いたということになるのだろうという話,そして西行や菅江真澄の話にも雁風呂に言及した文章や歌はみつからなかったという話をした。
その次に「伊豆沼八景」作成の話になったが,話は意外にも伊豆沼がラムサール条約によって住民からすっかりと切り離されてしまったという話が続出し,一切地元の住民でも沼に手を付けられないことってどういうことなのかと集まった人達が憂いた。
気軽に釣りもできず,お盆には蓮の花一本沼から取って来て仏壇にも供えられない。花一輪,虫一匹も取れない。鳥たちには苦労して育てた米を黙って提供しなくてはいけない。勝手に取ったら罰せられると沼との共生を断ち切られた現状を嘆くことが多かった。一体この断絶は歴史的に古く,もう昭和40年代にはテレビで伊豆沼がハクチョウの湖として有名になるにつれて更に顕在化してきたのだった。自然保護が叫ばれると手をつけるなと言うし,水害予防の工事というと自然保護団体がいきり立つし,結果的に地元住民は手を引いて諦めたりした。そして最後に農民が我慢してきたという論理である。マガンが稲を食べるというのはそうあることではないよ,落ち穂を拾って食べるというマガンの礼儀正しさを伝えても田んぼを作る者は鳥はすべて害鳥と考えている。これが実態なのである。
ラムサール条約にある「ワイズユース」の考えとはどこにいったのか。勝手に手をつけると罰せられるという法律はなんの法律か,このような無理解の狭間で伊豆沼の人々は苦しみ,やがて沼の水辺から遠ざかって行った。

雨に濡れる山桜
伊豆沼・内沼環境財団の嶋田哲朗氏はサンクチュアリーセンター設立30周年を迎えたときに次のように書いた。
一体魚一匹,虫一匹,お花一輪摘むだけで罰金刑になるという考えはどこから来ているのだろうか。そのような誤解がなぜそのままになっているのだろうか。どうもこれはラムサール条約だけでなく,鳥獣保護法,文化財保護法,自然保全地域というラムサール条約にのっかる様々な法的な規制の細目が絡み合ったことがラムサール条約に上書きされた形ですり込まれていると解してよさそうだ。ではこのように複雑に絡み合った規制が地元住民になぜ分かりやすく浸透されなかったのだろう。伊豆沼・内沼は農業や漁業など人の生活の中で維持されてきた沼です.たとえば,沼の水を灌漑に利用する,ヨシを屋根葺きに利用する,マコモを家畜の餌にする,コイやフナ,エビなどを採るなど,さまざまな方法で沼を利用してきました.こうした二次 的自然に対して,知床や白神山地のような原生自然に対して適用される,手をつけないという考え方で 取り組みが進んでいきました.当然のことながら, そういう考え方は沼から人を遠ざけます.ラムサー ル条約の 3 本柱のひとつにワイズユースという言葉 があります.皮肉にも伊豆沼・内沼は登録後にワイズユースから遠ざかってしまったのです. 2000 年代に入ると,手をつけない保護だけではなく手をつけて保全するという考え方があらわれ, 里地里山という言葉も世の中に広まりました.伊豆 沼・内沼では 2009 年に自然再生事業が始まり,植生管理や外来種駆除など総合的な保全に取り組んでいます.これまでにない積極的かつ大規模な保全を行うことによって,少しでも生態系の改善を図ることはもちろんのこと,手をつけてはいけないというこれまでの考え方を払拭するねらいもありました.
実はこの問題は伊豆沼の干拓当初から引きずってきた問題でもあろう。例えば伊豆沼を干拓すると悪水池の機能を果たさなくなり下流域に水害をもたらすという考え方や自然保護という観点から人間が勝手な造作を禁止するという法的な規制とこういう行為は罰則は伴いませんよという啓蒙の不足,動植物の保護のためには農家も少しは我慢して下さい,協力して下さいという勝手な思想の押しつけにつながり,それらから派生する問題を解決してこなかったのではなかったろうか。
蕪栗沼とその周囲の水田がラムサール条約に指定された意味は大きい。「その周囲の水田」が入っているからである。伊豆沼の問題を見て人間の関わらない自然とはあり得ないのではないだろうか。その問いに対する答えを「水田」の中に人間も入れて考えようとしているからである。
上記の論文の最後で嶋田氏はこうまとめている。
しかしながら,ラムサール条約湿地になると手をつけられない,という誤解はまだま だ根強くあります.これからも研究,保全,普及啓 発などさまざまな環境保全活動を展開し,ラムサー ル条約湿地にふさわしい歩みをすすめたいと考えて います.
