2022/12/19
冬の造形-呉地さんラムサール賞報告会-

冬の造形
この12月は立て続けに憧れていて,会いたい,会いたいと願っていた二人の人に会うことができた。
その一人がこの記事の前の記事で紹介した小野和子さん(昔話採訪家)であり,もう一人が今年ラムサール賞をワイズユース部門で日本人で初めて受賞された呉地正行さん(NPO 法人ラムサール・ネットワーク日本理事、日本雁を保護する会会長)である。お二人とも日本を代表する人物だと思いますが,長年のたゆまぬ努力と優れた視点と実践で取り組みを続けてこられた方々です。
呉地さんはラムサール条約地の宮城県蕪栗沼遊水池周辺の水田も条約エリアに取り入れ,人間の耕作地の水田が自然としても重要な付加価値を持っているという全く大胆で,斬新な視点を導入して,自然と人間との対立構造という従来のパラダイムを克服する視点を提出しました。未来を先取りしたこの考え方は「ふゆみずたんぼ」の普及を大きく前進させ,自然の指標であるガン類の水鳥の帰郷をかつていたはずの日本全国に拡大させていこうという実践に取り組んでいます。そういった点で「ワイズユース部門」での受賞となったのかもしれません。しかし,絶滅寸前だったシジュウカラガンの復活の実績も世界的に評価されたのですから賞受賞は遅いくらいだとも言えます。
ここに公表されている呉地さんのプロフィールをもう一度紹介しておきたい。

17日に登米サンクチュアリーセンターで行われた呉地さんの受賞報告会
呉地正行さんの取り組み(環境省の資料から)https://www.env.go.jp/content/000083432.pdf
・ 2008 年のラムサール条約第 10 回締約国会議(COP10)において、ラムサール条約決議 X.31 「湿地システムとして水田の生物多様性の向上(水田決議)」※1の草案作成及び、国内外の調整を通じて同決議案を採択に導いた。
・ この決議は、水田の湿地としての認識と価値を高め、農業における生物多様性向上の主流化に大きく貢献することとなった。
・ この決議履行のため、ラムサール条約湿地である蕪栗沼・周辺水田(宮城県大崎市・登米市・栗原市)などで、農家や地元住民、行政の協力を得て、生物多様性を向上させるとともに、ガン類の越冬地を提供する冬期湛水水田(「ふゆみずたんぼ」)の取組を行っている。この「ふゆみずたんぼ」の取組は日本全国の様々な地域に広がっている。
・ また、ガン類の渡り経路の解明に 1970 年代から取り組み、絶滅の危機に瀕したガン類、特に日本への渡りが途絶えたシジュウカラガン個体群の再導入をめざし、日露米の関係者の協力を得ながら渡りと生息地の回復事業を実施継続してきた。40 年に及ぶ歳月をかけ、現在、9,000 羽以上のシジュウカラガンが日本に飛来するようになった。
※1 「湿地システムとして水田の生物多様性の向上(水田決議)」
日本と韓国が共同提案した決議。水田が水鳥を始めとした様々な生物の生息地として重要であることを認識し、生物相の調査を進め、情報交換を行うこと、また、生物多様性を高めるような農法や水管理方法を特定し、実践することを締約国に求めるもの。
呉地さんとお話をすると,極めて広く多くの人の意見を受け止められるコミニケーション能力とそれらを再構成できる調整能力の素晴らしさを感じることができた。新田の地域再生について熱く語ってくださった。ああ,呉地さんに比べたら自分などまだまだだで子どもだと感じた。彼は自然と人間の橋渡しができる人で,昔話にあった「聴耳ずきん」のように自然と人を結びつけることができるのである。出会えて,話ができてよかったとつくづく思った。
