2020/08/29
トンネルを抜けて見える星空

トンネルを抜けて見える星空 トンネル部分に減光フィルターを2枚重ねてもこの明るさだ
峠には隧道があった
分水嶺にもなっていた
その隧道付近に珍しいシロチョウがいると聞いたのは
そのことを教えてくれた星さんが死んでから随分経った頃だった
辿り着いた峠の隧道の入口で飽くことなく山並みを眺めた
トンネル内に照明がないものを隧道だと信じ切っていた
しかし今はすべてトンネルと言うらしい
隧道と称したのは昔のことだった
秋深くに峠に立つと葉を落とした木々が果てしもなく続く
低くなった太陽の穏やかな光が短い午後に降っている
一人で写真を撮る
先程から小一時間も過ぎているが,通る車もなにもない
その時。あっ,
シロチョウか
白いチョウが隧道の上の林から空に舞い上がった
どこか疲れた飛び方だが飛ぶラインはしっかりしている
峠の上をしばらく旋回して
遥か遠くにかすかに白くなって小さく見えている海の方に
飛んでいき
白い海に溶けて見えなくなった
見届ける者がいることは幸せなことだぞと
わたしはシロチョウに語り掛け
世界に独りごちてみる
もう何度この峠に登った来たか
その度に一気に下りる下り坂に
かかる時間は短くなった
あっと言う間に麓に着く
どうしてか麓に着くと
自分にまとわりつく空気が重くなる