2023/01/29
百姓家から

百姓家から
昔が残された風景を探している
過ぎ去った時間を取り戻したいという気持ちなのかもしれない
追憶としてか,それとも自分自身が過ぎ去った時間から取り残されてしまったからか
その境目がなくなってしまう
幼い頃,冬ごとに母から新しいセーターをつくってもらっていた
毛糸を巻くのを手伝うと決まってどんなデザインのセーターが良いかと聞かれた
しばらくすると母に言ったとおりのセーターが届いた
嬉しいというよりは不思議だった
練炭こたつの匂いに酔う猫が家にいた
トラという雌猫だったが
吐いた後,突然行方をくらました
木箱の林檎を売りに来る人が居た
外の小屋に漬け物の樽が並んでいた
白菜やキュウリ漬けをその樽から取り出して夕餉の台所に運ぶのが子どもの仕事だった
野菜の切り残しはブタや牛,ニワトリ達に運んでいってえさとした

いなくなった牛たち
飼っていた牛やブタ,ニワトリ達には一頭一頭に個性があった
やっぱり穏やかでよく懐いてくれるのが好きだった
あんなにいた牛やブタや鳥たちが
一体いつから飼うのをやめたのか,記憶がない
ドラム缶を切ってつくった飼葉桶だけが暗闇の中にさみしく残っている
この子どもの頃の記憶は本当のことだったんだろうか
春先に牧草畑にミツバチを放しに来た南の国の人達に憧れをいだいた
あの記憶は本当のことだったんだろうか
