2023/06/16

朝陽に咲くモッコウバラ
しっかりとした雨が続いた
夜の間中,どこかの家か物置のトタン屋根を雨が強く叩く音が夢の中で続いていた
風情のないその雨音に連られ,夢の映像が無声映画のようにカタカタとコマ落ちして夢の人の声を奪い取っていた
朝になっても降り続く雨の音を,この饐えた身体へ快く染み込ませるにはどこで聴けばよいのかと思った
そこで足下を濡らしながらも近い林まで出かけることにした
まずは雑木林である
いただけない
特にホオノキのように堅くなった葉に雨が落ちて立てる音は太く重すぎた
見上げると林の葉の天蓋で円くなって雨音は取り囲むように響いている
シイカシ類もまたいただけない
天蓋から響く雨音が近くの葉にせわしく反響している
繁る葉の高低の重なり具合などもあるのだろう,不協和音のように響き合う
そして慌ただしく竹林へ逃げた
するとどうだろう
実にあっさりとして,すっきりした雨音が,向こうの景色に霞を置くようにしっとりと感じられた
竹林での雨音は抜けが良く
雨の存在感も,かろうじて感じさせ,いやみがない
天蓋に高く消えていく軽やかささえ感じられる雨音であった
今まで心づいて試したことはなかったが
むしろ若々しい竹林が雨をうまく受け止めている
雨との戯れの和音さえ奏でている
派手で華麗な音は人目(ひとめ)ならぬ耳(みみ)を引く
しかし長く,落ち着いて楽しめるものではない
むしろ葉と雨で交響される音はどちらの強さも強調されないところから生まれている
相手の力をそのまま受け止めるのではなく
むしろ上手にそらすことで相手の力を逃して世界に染み渡らせている
自然とはそういう絶妙なバランスを創り出す妙味に酔うときにこそ生きてくる
雨の音を聴きたいのなら
若い竹のそろった竹林の中で聞くとよい