2023/07/13
ハス咲く揃う 7月12日撮影
長沼先日「発音が横滑りする転訛の例「ショウトク」」という記事を書きました。
今日は,その続きになります。
今日紹介する「ダイコクさま」は,同じ発音ながら,違う神や仏を指し示していて,混同してしまいます。
まず,「大国主の尊(おおくにぬしのみこと)」音読みすれば,「ダイコク」
次に「大己貴神(おおなむちのかみ)」音読みすれば,「ダイコキ」引きづられて「ダイコク」
次に「大黒さま」そのまま読んで「ダイコク」
当初は,この三種類の性格も違う神様を別様に漢字を当てていたのでしょうが,発音が同じ事から「ダイコクさま」に収斂していってしまったのでしょう。これは,やはり話し言葉の連絡の中で,同じ発音なので同じものを指し示すようになっていった例でしょう。
例えば「倉稲之御魂之神」と書いて「うが(か)のみたまの神」と読み,別にも「宇迦之御魂の神(うかのみたまのかみ)」という表記があり,更に「宇賀神(うがしん)」があり,「うか-うか-うが」と同じ発音なので,いっしょくたにまとめられていきます。
また,「お蒼前さま」という馬の神様がいます。この「ソウゼン」が,勝善,小善,想善,蒼前,宗善,宗膳とどんどん当て字が拡張していって,意味が横滑りしていくのです。柳田国男の記事にも出て来ますが,秋田の例を見てみると,「そうぜん」という発音から,意味がどんどん横滑りしていく様子が分かります。
元々は「ソウゼン」ですが,文字に起こすと「相染(そうぜん)」。ここから転じて,相染(あいせん)また,転音して「愛染」となり,馬の神様がいつの間にか,愛染明王と結びつくことになるのです。
今の世ですと,書いた文字と発音と意味が一致するようになっており,誤解無く受け取り,理解することができますが,今日の例は,話し言葉が中心だった時代の人々の思考様式を知る,貴重な資料となると思います。