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堆積(たい積)していく春-新緑の香り-『心の調べ』

新緑の香新緑の香り
名もない桜名もない桜

 新緑の頃から緑濃くなる時期の晴れの日には独特の香りが感じられます。明るい空,風がとても高いところで鳴っているコーッという音。細かい空気の一粒一粒が花びらのように堆積していくように感じられます。その降り積もった春のうごめくような,濃くなった空気の層から香りが漂ってきます。わたしにはそのように感じられて仕方ありません。それは時間や思い出が堆積していくように感じることと同じなのでしょう。時間が見えないからこそ,見たいという気持ちがそうさせるのでしょうか。植物はどのように感じているのでしょうか。コンチュウたちはどのように感じているのでしょうか。
自然の音は、私共にとって最も親しいものである。風の音、雨の音、虫の音、小鳥の囀る声、何一つとして楽しくないものはなく、面白くないものはない。
 同じ風でも、松風の音、木枯の音、また撫でるような柳の風、さらさらと音のする笹の葉など、一つ一つに異った趣きのあるものである。
 私は雨の音が殊に好きである。とりわけ春の雨はよいもので、軒から落ちる雨だれの音などきいていると、身も心も引き入れられてしまうような感じがする。
 虫の音にも、まつむし、鈴虫、くつわむし、それぞれ趣きがあってよい。秋の夜長を楽しませてくれるこれ等の小音楽師達に、私は心からの感謝を捧げたく思う。
 私はまた、小鳥が好きで、都会の中に住んでいると、自然の森や林で自由に囀る鳥の音を聞かれぬことは淋しい。私は作曲に感興が湧いて、自然の音にひたりたいと思う時などは、いても立ってもいられない程、懐しい思いがする。
 自然の音はまったく、どれもこれも音楽でないものはない、月並な詩や音楽に現わすよりも、自然の音に耳をかたむける方が、どれだけ勝《すぐ》れた感興を覚えるか知れない。私たちがどんなに努力しても、あの一つにも勝れたものは出来ないであろう。

                                                宮城道雄『心の調べ』から「音の世界に生きる」

心の調べ心の調べ
(2006/08/25)
宮城 道雄

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