Mr.ホームズの観察

最後の事件簿
Mr.ホームズ 名探偵最後の事件(2015)

先日テレビで「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件(2015)」をしていました。おもしろかったので書いてみます。

93歳になったシャーロック・ホームズが物忘れに苦しみながら,最後の事件であるアン・ケルモット夫人の自殺を食い止められなかった後悔を綴る形で映画は進んでいきます。 監督はビル・コンドン。ミッチ・カリンの 『ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件』(角川書店刊)を原作にしています。まだ読んでいないのでぜひ読みたいと思いました。

ミッチカリンミスターホームズ
ミッチ・カリン 『ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件』

で,本棚から古い本を探してきました。『三人の記号デュパン/ホームズ/パース』ウンベルト・エーコ,トマス・A・シービオク編です。シャーロックホームズでおもしろかった時にぱらぱらとめくっている本です。
三人の記号
『三人の記号デュパン/ホームズ/パース』ウンベルト・エーコ,トマス・A・シービオク編(1990)東京書籍

映画は1947年の,ワトソンが結婚するためにホームズの元を離れ,兄のマイクロフトも死んだところから始まっています。ホームズも年を取って物忘れがひどくなっていました。もう93歳になっています。大切なことが思い出せません。名前などは袖口に書いてなんとか思い出そうとします。ところが袖口に名前を書くことで思い出したことがありました。ホームズはよく言っていました。特に袖口や手,指先などの観察の重要性です。
「僕の方法は知っての通り,細部の念入りな観察にもとづくものだ」『ボスコム谷の謎』
シャーロック・ホームズの魅力は『観察』なのです。それも一瞬のうちの並外れた観察と推理力(『三人の記号』ではこの推理力の特徴を「アブダクション」と言っています。機会があれば後でお話しします)の魅力と言っていいでしょう。つまり私たちは同じものを普通に見てはいますが,注意深く観察まではしていないのです。例えばホームズはワトソンに言いいます。「もう何千回も玄関からこの部屋に辿り着くのに何段の階段を上がってくるかさえ分からないでいる。ワトソン君,17段だよ」これが観察するという意味です。見ている物が客観的なデータとして使用可能状態になっていくことを観察と言うのです。「世の中にも明白に見て取れるものが一杯あるのに,誰も何かの偶然でそれを観察するということがない」『パスカヴィル家の犬』とも言います。
もう一つ,ホームズの観察の典型を見てみましょう。ワトソンとホームズの会話です。
ホームズ「見えない,というよりは見ていないのさ。ワトソン君。目のつけどころがわからないので重要なものをみな見逃してしまうのだよ。袖口の様子,親指の爪,それから靴紐に絡んでいる物あれこれ-こうしたものがどれほど大切かを教えることはとうていできないな。それで君があの夫人の様子から何を見てとったか言ってもらおうか」
ワトソンは記憶を頼りに観察した夫人の様子を伝えます。
ホームズはやっぱりやり返します。
「いやなかなか,ワトソン君いい線いっている。かなりよくやったことは認めてあげよう。肝心なところをことごとく見過ごしているのは確かだが・・・。いいかい,全体の印象に頼ってなどはいけない。細部に集中することだ。・・・」
このように観察とはその人物の細部がどうなっているかでおおよその境遇,職業,性格,そして未来も見当はつくのです。

映画の中でまずポイントになっているのがアン・ケルモット夫人を死なせてしまった事への後悔でした。夫のトーマス・ケルモットがホームズを訪ねて来ますが,ホームズはどうして分かったのか,開口一番「奥さんのことですか」と切り出します。どうして依頼の内容が妻のことだと分かったのか。ホームズは家政婦の子ども,ロジャーに謎解きをします。「服は安物だったが皺はない」ロジャーはすかさず答えます。「皺がないということは奥さんがアイロンをかけたんだ。安物だから家政婦を雇えない。だから奥さんがアイロンをかけたのだ。」ホームズの観察力がケルモット氏の境遇まで言い当てていることが分かります。

豊里 038-2s
春の兆し

ウィルソン「ホームズさん。いったいぜんたい,どうやってそこまで私のことが分かったのです。例えば私が力仕事をしていたことがどうして分かったのでしょう。全くおっしゃる通りで,私はもと船大工をしていました。」
ホームズ「あなたの手ですよ。右手が左手に比べてずいぶん大きい。きっと右手を使う仕事をしていて,その分筋肉がついたのでしょう。」
ウィルソン「そ,それではフリーメイスンのことは?」
ホームズ「あなたの教養を疑っているとは思っていただきたくないのですが,その規律正しさとうらはらにアークとコンパスの飾りピンをしていらっしゃる。」
ウィルソン「私が書き物をしていることは?」
ホームズ「その右手の袖口が5インチにわたって擦れて光っている上に左の肘の辺りに机につくため当て布をしているのを見て他のことが思い浮かびますか。」
ウィルソン「では中国のことは?」
ホームズ「あなたが右の手首の上にしている魚の刺青ですが,それは中国でしかできぬものです。その魚の鱗の部分に微妙な赤味を加える技術は中国独特のものなのです。」
ホームズはこうやってしばしば依頼人を驚かせたりします。「知識」「観察」「推理」を探偵の必要な条件に挙げています。観察する大切さを説くことは逆に言えば「明白な事実ほど人の目を欺く」ものだとホームズが考えているからです。

行方不明の競走馬を捜索する『シルヴァー・プレイズ』での会話です。
グレゴリー警部「私が注意を払うべき点が他にありましょうか?」
ホームズ「夜中の犬の奇怪な行動ですよ」
グレゴリー警部「あの犬は夜中には何もしませんでしたが」
ホームズ「それこそが奇怪なことなんです」



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