養蜂家Mr.ホームズ

ウメ電車 129-2ss
ウメ咲きそろう

先日テレビで「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件(2015)」をしていました。おもしろかったので書いてみます。

93歳になったシャーロック・ホームズが物忘れに苦しみながら,最後の事件であるアン・ケルモット夫人の自殺を食い止められなかった後悔を綴る形で映画は進んでいきます。 監督はビル・コンドン。ミッチ・カリンの 『ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件』(角川書店刊)を原作にしています。

今日はその2回目ということで「養蜂とシャーロックホームズ」と題して書いてみます。
映画の最初と最後のシーンに蜂が出てきて,映画の中でも蜂が重要なモチーフになっています。まず最初のシーンが子どもが電車の窓にいる蜂を見付けるところから始まります。「蜂にいたずらしてはいけない」ホームズが子どもに注意します。「それはミツバチじゃない。スズメバチだ」映画のモチーフがまず最初に語られます。

シャーロック 017-2s
「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」から最初のシーン。「それはミツバチじゃない。スズメバチだ」

シャーロック・ホームズが少なからず養蜂に興味を持っていたことは,例えば『最後の挨拶』にこう出てきます。
「しかし君は引退していたんだろう?ホームズ。僕は君が蜂と本に囲まれて、サウスダウンズの小さな農場で隠匿生活を送っていると聞いていたが」

「その通りだ、ワトソン。これが僕ののんびりした休息生活の成果だ。僕の後半生の代表作だよ!」彼はテーブルから本を取り上げて完全な表題を読み上げた。【実用養蜂便覧、女王蜂の分封に対する観察付き】「僕はこれを一人で書いた。寂しい夜と忙しい日の成果に注目だ。僕がかつてロンドンで犯罪界を観察したように小さな働き蜂を観察してきたおかげだよ」
と引退後にはミツバチの本まで書いています。ミッチ・カリンはホームズの養蜂について,「養蜂における彼の真の関心は,あくまで蜜蜂が持つ独自の文化とローヤルゼリーの効能にあり,蜂蜜は栄養豊富な副産物と考えていた」また「賢くなりたければ進化し続ける科学を学び,窓の外に広がっている自然への鋭い観察力を学びなさい」 と書いています。ホームズの鋭い観察や推理は,ミツバチを飼い,観察することで養われ続けているということを強調しているようです。

シャーロック 022-2s
「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」から 左がホームズ,右がロジャーです。

引退して田舎に引っ込んだホームズのお世話をしているのは,マンロー夫人とその子どもロジャーです。ロジャーはホームズのミツバチの世話を手伝うことになります。聡明なロジャーはホームズの良き理解者になっていきます。そんな時に重大な事件が起きます。
ロジャーが,蜂に刺されてミツバチの巣箱の近くに倒れていたのです。救急車で運ばれて病院でも意識が回復しないほど重症でした。一人息子が意識不明の重態に陥って動転しているマンロー夫人はミツバチの巣箱に灯油を撒いて火をつけようとします。ところがホームズは気が付くのです。
「ミツバチの所為ではなく,近くに巣喰っていたスズメバチにやられたんだ」と。

ミツバチは刺すと針が残り,ミツバチ自身も死んでしまいます。
よく考えると,ロジャーがここかしこ刺された所に蜂の針は残っていませんでした。ロジャーを刺したのはミツバチではなかったのです。ロジャーはミツバチの天敵であるスズメバチがミツバチを攻撃しているところを見て,スズメバチを退治しようと,スズメバチの巣に水をかけてスズメバチの群れに襲われたのでした。ホームズは乱れているロジャーの足跡からこの事実を考えます。真実は全くその通りでした。

シャーロック 036-2s
「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」から  スズメバチの巣を焼き払っています 
左がホームズ,右がj家政婦のマンロー夫人です

ラストは元気になったロジャーが母マンロー夫人にミツバチの習性を教えているところで終わります。この映画自体がミツバチをモチーフにすることでうまく過去,現在,未来が繋がっていきます。重要なアン・ケルモット夫人の自殺での推理の過ちを正す場面にもミツバチが登場します。ケルモット夫人が庭園にやってきてホームズと話をする場面です。「奥さんの香水は何ですか」と最初に聞いて「カメオ・ローズ」という香水の香りによってミツバチが誘われて手袋に留まる場面があります。ホームズの香水の知識が冴え渡る場面です。
「七十五種類の香水をかぎ分けられるくらいでないと犯罪の専門家は務まらないんだ。僕自身の経験から言っても香水を敏感に嗅ぎ取ったおかげで解決できた事件はひとつやふたつじゃない」『パスカヴィル家の犬』
香りに対する造詣はホームズの独壇場でしょう。エラリークィーンが『Yの悲劇』で使った香りの演出は1932年でした。

養蜂の技術によって自然を知るホームズの後半生のポイントをよく生かした映画の演出に巧さを感じました。これは映画上の演出もあるんでしょうが,原作のミッチ・カリンの 『ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件』の視点から来ているものです。
(ホームズが)新宿の町を奥へ奥へと歩いている時だった。忙しそうに飛び回っている何匹かの働き蜂が目に留まった。・・・彼は働き蜂の飛行経路を辿ってみた。やがて中心街に近いオアシスに辿り着いた。そこにはざっと見て20近いコロニーがあった。
とあり,映画とは違い,原作でホームズは下関,広島,神戸,東京と日本各地をまわって山椒を探していたのでした。

ミツバチ属は世界で9種類のみで,アジアに広い範囲で生息しているトウヨウミツバチと西洋に生息しているセイヨウミツバチが東西のミツバチの横綱になっています。この2種は複数枚の巣板を作ります。つまり旺盛な活動能力を持っているのでしょう。その点が養蜂の対象となった理由でしょう。あとの7種のミツバチは一枚だけの巣板をつくり,その巣も開放的な場所に作ります。トウヨウミツバチとセイヨウミツバチは開放的な場所ではなく閉鎖的な木の洞のような場所に巣をつくります。日本には昔からトウヨウミツバチがいました。他の地域と区別してニホンミツバチと呼ばれていたのです。北海道を除いた青森から鹿児島まで広く生息しているそうです。
ミツバチのちがい
左がセイヨウミツバチ,右の黒っぽい方がニホンミツバチ 藤原養蜂場のHPより転載させていただきました

ミツバチは一つの巣で1~2万匹,女王バチは1匹。後の働き蜂は全てメスです。卵を産むのは女王バチだけで,同じメスの働き蜂は卵を産まないので,その産卵管が変化して針になっていったのだそうです。オスの蜂は針自体を持っていないのだそうです。この辺りはびっくりです。日本にもセイヨウミツバチが明治時代に家畜用として運び込まれて現在に至っているそうです。ホームズの鋭い観察や推理がミツバチのコロニーの観察から来ていたということは大いに肯けることではないでしょうか。

ニホンミツバチが暮らす島
『ニホンミツバチが暮らす島-対馬の伝統養蜂をめぐる旅-』2015 宮城教育大学 環境教育実践研究センター


ミツバチについては溝田浩二氏の本を参考にしました。この本で対馬が舞台の伝統的な養蜂の方法を興味深く書いてありました。
昆虫を専門にする溝田浩二氏のおもしろい仮説も見逃せません。
対馬というと思い出すのが,宮本常一の「忘れられた日本人」です。あの中には養蜂については触れられていませんでしたが,馬喰の話「土佐源氏」の中に百姓に動物を預けると,とても大切にしてもらいどんな馬も元気にしてもらえるというくだりが思い起こされました。日本人は古来から動物や生き物を大切にしていたことが知られて今でも覚えていました。対馬の人々のミツバチに対する気持ちも分かる気がしました。


次回は,「ホームズの推理」という話になるでしょう。ありがとうございました。


にほんブログ村 写真ブログ ネイチャーフォトへにほんブログ村 写真ブログ 鉄道風景写真へにほんブログ村 鉄道ブログ 東北の鉄道へ