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雉も鳴かずば撃たれまい

キジキジ
雉も鳴かずば撃たれまい

今日は「雉も鳴かずば撃たれまい」という昔話を紹介します。
「雉も鳴かずば撃たれまい」というこの題名ですが,雉は草陰や藪にいて隠れています。逃げるときにはケンケーンと鳴いて飛んで逃げることはよくご存じでしょう。鳴きながら飛ぶので鉄砲でねらいを付けられ易く,また撃たれやすいのです。だから雉も逃げるときに鳴かなかったら狙われ,撃たれることもないだろうにという意味が込められています。

今日はこの「雉も鳴かずば」の昔話を宮城の歴代の昔話の名手,永浦誠喜さんと伊藤正子さんの二人に語ってもらいましょう。もう二人とも故人になられましたが宮城の語りの歴史というものも残しておきたいものです。ダイナミックな男語りの誠喜さんと順序よく丁寧に語る女語りの正子さんに敢えて同じ昔話を語ってもらうのは実はわけがあります。それは追々お話します。今日はまず二人の語りの違いを楽しんで下さい。

キジ2きれいな羽です
「雉も鳴かずば」
永浦誠喜さんの語り
あるどごで嫁御もらったんだど。
実家にいだどきには口立っていたらしいので,もらったんだげっとも,そごの家さ来たれば,まじめに稼ぐも稼ぐしするし,いい嫁御だけんつも,なじょなわけだか,さっぱり口立たねんだど。なに聞いても黙っていて,用あることも語んねような,そういう嫁御だったんだど。
なんにも口立たねから,世間の人達にもおしょすい(恥ずかしい)しするから
「なにか語れっちゃ」
って言ってもはっぱりなんにも言わねぇ。
「仕方ねえから,実家さ返すより他ねえや」
って,家の人達,みんな相談して,そして隣りの親父(おやん)つぁんさたのんで,嫁入り時持ってきた財宝馬さ乗せて,実家さ帰ることになったんだど。
で,実家さ送る途中で,山の近くでも通ったかね,どっかで
ケンケェーン
って雉ぁ叫んだんだったど。
したれば,すぐあとから,ドーンと鉄砲撃つ音して,雉落ってきたんだど。
そしたれば,その送られいる嫁御は
もの言うて父は長柄の人柱
雉も鳴かずば撃たれまい
って,隣りの親父(おやん)つぁんさ歌詠みして聞かせたんだど。隣りの親父(おやん)つぁん,たまげで(驚いて)
「ながながこの嫁御は頭いいし,口語られっけや」
って,実家さ送らねでまだ戻ってきたんだど。それからその後いろいろ事情聞いてみたれば,嫁御のお父(どっ)つぁんて人は人柱にされて生き埋めになったんだね。
しょっちゅう堤防切れでしもう長柄川つうどころあって,その修復工事してる時そのお父(どっ)つぁんが
「誰か人柱に立てっと切れなくなる」
って言ったんだど。そしたっけ
「誰も人柱になる人もねぇから,お前言い出したんだから人柱になってけろ」って,お父(どっ)つぁんが人柱にされたんだど。
で,お母(がっ)つぁんが娘が嫁御に行く時に
「お父(どっ)つぁんはよけいなことしゃべって,人柱になった。お前も人中(ひとなか)でよけいなことはしゃべるもんでねえ」
ってかたく言われたので嫁いだ先では口言わねでいだったのはこのわけだった。
「働いても,家中(えなか)のことでも,ちゃんとやるしするから,置いてみんべ」つうことになって,それからはよけいなことはしゃべんねぇが用あることは言って,りっぱに務め果たして,大切にされて死ぬまで嫁御になっていたんだどっしゃ。
んで,えんつこもんつこさげだど。

メスメス
次に伊藤正子さんの「雉も鳴かずば」です。
伊藤正子さんの語り
むかぁしむかしね。
あるどごろに,うんとへらへらっつうお父(どっ)つぁんがいだったんだど。あることねぇこと,いっそ語って,そこの部落を騒がせたり,村を騒がせたりしてたんだど。
そこに長柄川って川があって,雨降るたんびに橋が流されるんだと。毎年流されるから村の人達(したつ)が集まって
「いったいこの橋,なじょに架けたら流されねんだべや」と相談してしたんだど。そしたら,そのへらへらっつうお父(どっ)つぁんが
「なにな,人柱立てっと流されねぇどや」って語ったんだと。
「んだら,人柱立てて橋を架けたらいいんでねぇが」
「だれ,その人柱になる」
誰もいながったんだど。村の人達(したつ)は
「お前がその口出ししたんだからお前を人柱にするべ」
断ったがとうとう人柱になってしまったんだど。
さあ,お母(がっ)つぁんはうんと悲しんだんだど。そごに娘が一人いたんだど。年頃になって嫁御にいくことになったんだど。そしたらお母(がっ)つぁんが
「あのな。おら家(え)のお父つぁんは口語ったばかりに人柱にされでしまった。お前もな,口語んなよ。よけいなこと語ってだめだぞ」そうかたく語ったんだど。
さあ,嫁御にいったげっともなぁんにも語んねがったんだど。聞かれても頭で「うん」とか「やんだ」とかぐらいしか言わねがったんだど。
「さあ,器量はいいし,よく稼ぐし,朝は早くおきっし,なぁんにも言うことはねぇ嫁御だったんだげっとも唖(おっつ)嫁御もらったんではわがんねっちゃ」
「したらば実家さ返せ」となったんだど。
隣りの親父(おやん)つぁんを頼んで馬っこさ乗せられて実家さ帰ることになった。
そしていよいよ実家さ返される日になって嫁御は
(お父(どっ)つぁんが人柱にされて悲しんでんのに,おれがまた嫁御出されていったのならばお母(がっ)つぁん,なんぼ悲しむべがなぁ。泣くべなぁ。)と思って涙ぽろぽろ,ぽろぽろ流れて板の間が濡れてしまったんだど。そしたら姑お母(がっ)つぁんが
「なんだ。お前。こご汚したのが。化粧水か」と怒られたんだど。それでもなにも語んねがっと。
そして隣りの親父(おやん)つぁんが来て,馬っこに乗せられて実家さ返されたんだど。泣きながら行ったど。途中まで行って山道に差し掛かったところ,雉が
ケンケェーン
って鳴いたと思ったら,ズドーンと鉄砲で撃たれたんだど。そしたら嫁御が馬っこの上で

わが父ももの言うて長柄の人柱
雉も鳴かずば撃たれまいぞや

と歌詠みしたんだど。そして更に

今朝姑(はは)にお化粧水かと問われしが
送られ妻の涙なるらん

と詠ったんだど。
これには隣りの親父(おやん)つぁんも驚いて
「唖(おし)嫁でもなんでもね。こんな立派な歌まで詠むんだから」と引き返してきたんだど。それからというもの必要な時にはちゃんと語ってよい嫁となり幸せに暮らしたんだどっしゃ。
 えんつこもんつこさげた


どうでしたか。同じ昔話なのに全く違って聞こえますね。
語りの構成やストーリーの展開の工夫でこんなにも違って聞こえるものなのです。お二人とも語りの達人です。でもこれだけの違いがあること自体が驚きです。私がなぜここにお二人の語りの全文を載せたかというと,実はこのお二人,全く同じおばあさんから,この話を聞いて育ったお二人なのです。
この続きはまた次に。


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