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男語り・女語り

永浦誠喜さんと伊藤正子さん
昔語りの名手 永浦誠喜氏(左)当時91歳と伊藤正子さん(右)74歳 2000年8月当時の写真
 「聴く・語る・創る」第11号2004年3月発行日本民話の会から
 
先回の記事は昔話「雉も鳴かずば撃たれまい」を永浦誠喜さんと伊藤正子さんのお二人に語っていただきました。(こちら">こちら
同じ話なのに語り口にも展開の妙もかなり違った味わいになっていましたね。話は嫁いだ嫁が一言も話をせず困り果てた嫁ぎ先が嫁を実家に返そうというもの。どうして一言も話さない嫁なのかと言うと,父親がへらへらとして口達者過ぎて結局は自分自身が人柱になってしまうという話が底にあります。口は災いの元ということわざの通り,減らず口をたたいてばかりいると災難は自分に降りかかってくるという教訓が込められているのかもしれません。母親は嫁ぐ娘に要らないことは話すなよ,父親のようにはなるなよという教訓を垂れたことで娘は一切言葉を話さなくなるという内容です。しかし話してみれば歌まで詠む,才の立つ嫁であったことが分かり,嫁ぎ先で幸せに暮らしたという筋です。

男語りの永浦誠喜さんの話は文字に起こしてみると文字数541文字でストレートに何も喋ろうとしない嫁の問題に入り,そこからストーリーが回想されて理由が明らかになっていきます。簡略にストレートに,まさに男性的な語り口で明快に語られていきます。一方,女語りの伊藤正子さんの語りは1598文字で永浦さんの語りの3倍の量で出来事やストーリーや登場人物の感情がよく分かるようにタイムラインで出来事順に丁寧にかみ砕くように,畳みかけるようにゆっくりと語られていきます。伊藤正子さんの語りがこんなにも分かりやすく丁寧なのは,嫁に行くということはどういうことか,昔,女性が幸せになるということはどういうことかという同じ女性へのはっきりとした助言が伺えます。つまりお二人が昔話を語ることは,それを聴いてくれる人への明確な人生訓が埋め込まれているということなのです。永浦氏の話は男の立場から嫁を考えることで,同じ女性としての伊藤氏の話は女の生き方についての思いを話の中に埋め込んでいきます。これが同じ話なのに「男語り女語り」として全く違った魅力を花咲かせていきます。

なぜ今回,「男語り女語り」というテーマで取り上げたのかというと,このお二人は全く同じ人から昔話を聴いて来たお二人なのです。永浦誠喜氏と伊藤正子氏の昔話のルーツは明治元年生まれの祖母のよふさんなのです。全く同じ昔話のルーツを持つお二人が自分が語り手になった時に自分の語りをどのように創りあげていったのかが分かるわけです。

平成17年10月23日(日) 007-2s
平成29年5月31日に亡くなった昔語りの語り部 伊藤正子さん 平成17年10月の昔語りの様子

ここにみやぎ民話の会の伊藤正子さん紹介がありますから載せてみます。
 (伊藤正子さんの語りは)母のよしのさん,その母のよふさんからの伝承で、母から娘へと女系をたどって受け継がれているのが特徴です。正子さんにとって祖母にあたるよふさんは宮城県登米郡新田から隣の南方町へ嫁ぎました。そして、母よしのさんは南方町から新田へと嫁入りします。正子さんは登米郡新田で生まれ育ち、隣家の伊藤家に嫁ぎ、そこでいまも元気に暮らしておられます。つまり、伝承の水脈は新田から南方へ、そして、南方から新田へ行ったり来たりして、いま正子さんの口から溢れているわけです。祖母も母も正子さんも農家のお嫁さんです。農作業の合間を縫って、手仕事をしながら、昔話を語ってきたということです。
 なお、語り手永浦誠喜さんとは年齢の違う従兄妹同士です。
レパートリーは200話近いという。19歳で嫁ぎ子育てと農業一筋に生きてきました。幼いころ私は電灯のない農家に育ち、秋から冬の長い夜は母の語る昔話を聞いて育ちました。その数ははっきりわかりませんが、およそ200話は超えたでしょう。


調査に寄れば永浦誠喜氏の話はいつどんなに時代を隔てて話しても全く一字一句同じだったと言われます。それは伊藤正子さんの場合でもそうだったと言われます。全く驚くべきことです。全国津々浦々に居る語り部は現代では全くすたれています。宮城では仙台メディアテークが音声資料として昔話を保存しようとはしていますが語り部や語りという文化自体が忘れ去られようとしています。また昔話のドキュメンタリー映画「うたうひと」が残されたことも意義深いことです。

伊藤正子さん2
映画「うたうひと」より

映画「うたうひと」のH.Pは ( こちら">こちら )

現代の「語り」という文化はこれからどのように生き残っていくのでしょうか。コロナの時代を迎え,パソコンやスマホのディスプレイ上で「語り」は成立していくのでしょうか。



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