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ミツバチの季節-分封という奇蹟-

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生まれて間もなくの働き蜂(メス)

五月の空は眩しい
その空に女王バチは高く高く舞い上がった
この飛んでいる女王バチは今生まれて初めて空を見た
緑なす大地を見た
そして目指す太陽を見た
今まで築いてきたすべてを捨てて太陽の前に世界を作る
ためらいなどない
もうこの世に投げ出されてしまった
千にも思える我が子達が黒い雲の集団となって添い従ってくる
その中でもオス蜂達は身体が空中分解するほどの,すべてのエネルギーを出し切って女王バチに近づいていく
一番早く女王バチに追いついた者だけが交尾を許される
しかし交尾を終えたオス蜂は死んで落下する
オス蜂にとって最後に聞く何千もの唸る羽音は
死の前奏曲だったのだ
黒い塊の蜜蜂の集団は変幻自在に形を変える
丸くなり
たなびく雲のようになり
楕円形になり
密度を濃くしあるいは広がり薄まり
これ程の飛行のダンスは見たことがない

分封 週末養蜂のはじめ方
やがてひとかたまりになる(画像は「週末養蜂のはじめ方」より)

新しい巣が決定され,ゴーサインが出されるまでこのように数時間から数日,彼らは木の枝にぶら下がっている。この間に新しい巣の場所を探したり前に見つけた場所に変化がないかを確かめたり,先達(スカウト)達が各方面を駆け回ってきては塊の上でダンスをして報告する。結局は最良な場所に決定され,ゴーサインが出される。先達(スカウト)達も互いに報告のダンスを見ていて自分の選んだ場所より最適な場所があれば心変わりして転向することもある。「こんなことを繰り返しているうちに結局すべての先達が同じ場所を選び,互いに同じダンスを踊ることになる」(『ヤナギランの咲く野辺で』ヘルンド・ハインリッチ)

新しい巣へのゴーサインはどのように出されるのだろうか。
「集塊が飛び立つ前の三十分かそこら,先達達がブンブンと音を立てながら集塊の表面や内部をそわそわと走り回る。おそらく他の蜂たちに飛び立ちの準備を促すのだろう。しかし飛び立ちはあくまで突然である。」(前掲書)

そうなのだ。発車のベルは突然に起こる。それも異次元で鳴っているようにも感じてしまう。マガンやカモの飛び立ちも毎朝,夕と繰り返されているのにゴーサインだけはいつも分からない。

先導は,すっ飛び個体(ストリーカー)と言われる蜂たちが群れの中を矢のように飛んで突進する。「新しい巣穴に着くと先達個体が腹部にあるナサノフ腺から臭いを出して仲間に入口を教える。そして数分後には何千匹ものハチが新しい巣穴へとなだれ込む」(前掲書)


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巣板を見るとバランス良く卵さなぎセクションが出来上がっている。小さめな卵は働き蜂(メス),少し大きな卵はオス蜂。そして右下に垂れ下がっている袋に女王バチになるさなぎが詰まっている

ハインリッチは考えた。
「集塊に一気にゴーサインが出された時に外側を囲んでいる蜂たちは冷えてうまく飛べないのではないだろうか。また塊の中央部にいる蜂たちは身動きできず周囲からの熱で体温が上昇し過ぎるということはないのだろうか。集塊の中での温度調節はどのように行っているのだろうか。」
確かにそうだ。ミツバチは最低でも体温15℃以上は活動に必要だ。外気にさらされて気温が下がっている外側の連中はどうしているのだろう。それについてはビューデルが「集塊の外側にいる個体はベテランの個体が多い」そうで「それはまた採食要員でもあり,身震いも得意で低温にもよく耐えられる」個体だそうだ。(前掲書)そうかベテランが脇を固めているわけだ。中央部の高温はどうだろう。のぞいてみると「ハチたちは垂れ幕の層をつくるようにぶら下がっており,その垂れ幕と垂れ幕の間にはハチが自由に通り抜けられるほどの隙間が空いていた。この隙間が高すぎる温度を下げる通気口の役目をはたしているのだった」集塊の中央部はこのように隙間をつくり温度を下げ,あるいは密接して温度を上げたりしているのだった。
大切なことはこれらの温度調節が誰かの指示で行われているのではなく数千の個体がそれぞれ各自で行っている結果,温度が常に安定状態に保たれていることです。なんと素晴らしい。ミツバチに個はないと言われますが個が完結している社会が成り立っているのではと思います。ひたすら他益に徹することが個を支えていると言えるでしょう。全体が個であり,個と全体の境界がない仕組み。または没個性が究極の個性であるとも言えます。ミツバチの分封はまさに奇蹟というしかありません。

当地でも分封まで秒読み段階です。

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