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新・遠野物語―門口(もんぐち)のある風景―

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門口のある風景

毎朝おばあさんは長い門口(もんぐち)を歩いて新聞や手紙を取りに来る。
降り注ぐ木漏れ日や落ち葉や通りかかるリスなどがおばあさんを迎える。
朝靄に煙る朝もあれば,夜露敷き詰められた砂利の道である。最近敬老の日に孫達から贈られた杖は坂道では何となく使いやすい手頃な長さである。杖を使う自分はあまり好きではない。しかし,転んでしまったら家族に迷惑を掛けて申し訳ないとも思う。この家に嫁いで65年。毎日この門口の長い坂を登り下りしてきた。まだ元気で歩ける。このように長い門口を歩いて取ってきた新聞は必ずおじいさんの席卓にまず置く。おばあさんのこのルーティーンも65年。

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田舎へ行けば行くほど,道路から奥に入って家がある。
本道から家までの道をよくこちらでは門口(もんぐち)と言ったりする。門口(かどぐち)と言うのかもしれない。
この門口を歩いて新聞を取りに行ったりする。また郵便受けを本道の近くに立てたりして配達夫の手をわずらわせないようにしている。この頃ではあまり見られなくなったが,昔に建てられた家は,こんもりとした林を抜けて奥にある家にたどり着くようなとてもエントランスが長く,風情を感じさせる家が多かった。
番犬
番犬の迎える門口

この長い門口の情景をテーマに写真など撮っている人はいないけれど,さんぽをしていると一瞬とんでもない山奥に来てしまっているという感覚に襲われることがある。昔の人は自然に溶け込む家造りを考えていたのでしょう。長い門口を曲がりくねりながら行くと,ぱっと目の前が開け家が現われてくる。家そのものは南面に開け,そこに畑がつくられている。

この長い門口は,春は花びらで彩られ,夏はひんやりとして木漏れ日が揺れ,秋は落ち葉で埋まり,冬は掃き清めた雪でつくられる。訪ね来る人はこの長い門口という自然の出迎えを受けながらこんにちはと家にたどり着く。
「こんにちは」
「こんにちは」
大体は開け放たれた雨戸や玄関だが,返事はない。

野良に出ているのである。

(この記事は2013年4月27日の再録です)
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