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朝靄の伊豆沼-姿か,音か-

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今朝の伊豆沼の朝霧

紀 友則(きのとものり)という平安時代前期の歌人がいる。紀貫之のいとこだという。「初雁(はつかり)」というお題で詠んだのが次の歌だという。
「春霞かすみて往にし雁がねは今ぞ鳴くなる秋霧の上に」「春霞立つ中を北へ帰っていった雁の鳴く声がまた聞こえてきた。今は秋の霧の中で・・・」と意訳してみる。詠んでいる当人には雁の姿は見えず,雁の声だけが聞こえているのです。霞や霧に視界が閉ざされていながら,ガンの鳴き交わす声だけに着目した見事な歌です。私は感覚を研ぎ澄ませる方法として「感覚遮断」という方法が有効だと言う話を今までにこのブログでもよくしてきました。夜の写真を撮ることが多くなってからは暗い夜,光がない分だけ聴覚や触覚や臭覚が研ぎ澄まされていくことをよく経験します。写真という視覚に訴える作品をつくるのに,視覚だけではなく全ての感覚を動員して写真を撮ることが大切なのです。紀友則のこの歌は,今,霞や霧によって視覚という感覚が遮断されているが聴覚によって雁の存在を見事に季節の特徴を捉えて詠っています。

先日,マガンの飛び立ち観察会を開いた折,マガンの羽のきしる音や風を切る音なども大好きだという人が居ました。まったくその通りだと思いました。ならば雁の歌は視覚で詠まれる歌が多いのか,視覚だけでなく鳴き声などの聴覚で詠まれている歌が多いのか調べてみたいと思いました。

皆さんは雁の存在を視覚でありありと感じる方ですか,それとも雁の鳴き声でありありと感じる方ですか。

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霧の飛び立ち 2019.12月15日アップ

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今朝の伊豆沼 

ここでは,以前雁の歌として取り上げた西行の雁の歌を拾い上げて考えてみましょう。雁の姿を見ての歌か,声だけで詠んだ歌か,おおよそ読み流すと分かる気がしますね。
46 何となくおぼつかなきは天の原霞に消えて帰る雁がね
  
47 雁がねは帰る道には迷うらん越の中山霞隔てて

  帰雁
48 玉章(たまづさ)の葉書かとも身ゆるかな飛び遅れつつ帰る雁がね

365 くまもなき月の面に飛ぶ雁の影を雲かとまがへつる哉

   船中初雁
419 沖かけて八重の潮路を行く舟はほのかにぞ聞く初雁の声

   朝聞初雁
420 横雲の風に分かるるしののめに山飛び越ゆる初雁の声

   入夜聞雁
421 烏羽(からすば)に書く玉章(たまづさ)の心地して雁鳴き渡る夕闇の空

   雁声遠近
422 白雲をつばさにかけて行く雁の門田の面の友したふなり

   霧中雁
423 玉章(たまづさ)のつづきは見えで雁がねの声こそ霧に消たれざりけれ

   霧上雁
424 空色のこなたを裏に立つ霧の面に雁のかかる玉章(たまづさ)

   寄帰雁恋
600 つれもなく絶えにし人を雁がねの帰る心と思はましかば

959 連ならで風に乱れて鳴く雁のしどろに声の聞ゆなる哉 
                                                   以上山家集
   帰雁
4 いかでわれ常世の花のさかり見てことはり知らむ帰雁がね
                                                   西行法師家集

以上,西行の雁の歌を十三首選んでみました。
鳴き声などの音に着目した歌と雁の姿を見て詠んだ歌に分類してみましょう。

雁の鳴き声などの音
46 何となくおぼつかなきは天の原霞に消えて帰る雁がね  
47 雁がねは帰る道には迷うらん越の中山霞隔てて
419 沖かけて八重の潮路を行く舟はほのかにぞ聞く初雁の声
420 横雲の風に分かるるしののめに山飛び越ゆる初雁の声
421 烏羽(からすば)に書く玉章(たまづさ)の心地して雁鳴き渡る夕闇の空
423 玉章(たまづさ)のつづきは見えで雁がねの声こそ霧に消たれざりけれ
959 連ならで風に乱れて鳴く雁のしどろに声の聞ゆなる哉 

見える姿
48 玉章(たまづさ)の葉書かとも身ゆるかな飛び遅れつつ帰る雁がね
365 くまもなき月の面に飛ぶ雁の影を雲かとまがへつる哉
422 白雲をつばさにかけて行く雁の門田の面の友したふなり
424 空色のこなたを裏に立つ霧の面に雁のかかる玉章(たまづさ)
600 つれもなく絶えにし人を雁がねの帰る心と思はましかば
4 いかでわれ常世の花のさかり見てことはり知らむ帰雁がね

雁の鳴き声などの音 七首
雁の飛ぶ姿が見える 六首
となります。
意外と雁の歌は鳴き声を聞いて詠まれる場合が西行には多くあるということができます。ただ今回は西行だけですからもっと検索範囲を広げるとどのような結果になるのかはこれからの楽しみです。

私などはガンの鳴く声がしみじみと秋空の広く開いた空間に声色豊かに,遠く近く聞こえてくる方がガンの存在を心から感じることが出来ます。
皆さんはどうですか。                                                 
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