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着水のとき カフカ『掟の門前』

着水準備
 当たり前のことですが,小説の基本は時間を守ることから始まります。1行の中に二つの台詞を書くことはできません。必ず順番があり,まず最初に一人分の台詞があり,次に,また一人分の台詞が書かれます。この順序に沿ってこそ読者は小説の言葉を理解できます。つまり,出来事の順序と時間の経過が一致していることが書き言葉の表現の条件となるわけです。この出来事の順序性と時間を一致させるきまりを,あえて崩す試みもたくさんなされています。ミステリーなどはその最たるものでしょう。順序性と時間の不一致を逆手にとる読み物もこのブログで,ボルヘスやコルタサルの魅力として紹介してきました。
 カフカの「掟の門前」という短編は,出来事の順序性と時間の不一致を究極まで突き詰めた作品ではないかと思います。厳しい門番と開かれることのない門,その前で門が開かれる日を待ち続ける男。死ぬときになって初めてこの門はその男のための門であり,死ぬことによって初めて開かれる門,つまり死の門であったことを知る男。さらに門番は言います。
「真実として受け止めることはない。単なる必然だ」と。
〈これはフィクションであり,実在するものではありません。〉という論理的に導かれた結果が必然という意味なのでしょう。読み手は言葉によってつくり出される真実(リアリティー)を因果律という「原因結果」で理解し,書き手は論理的に「理由帰結」で必然性をつくりだすのです。
 いずれにせよ,まだまとわりついて決して離れることのない「時間」という魔術からはだれも覚醒してはいません。

今日の本
『カフカ短編集』カフカ 岩波文庫
カフカ短篇集 (岩波文庫)カフカ短篇集 (岩波文庫)
(1987/01)
カフカ

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