FC2ブログ

夕暮れ。林に居て

須川 966-2s
夕暮れの春

須川 885s
冬の忘れ物

須川 800-2s
一日の最後の光

今日の本
小泉八雲「明治の心」から「停車場にて」
明治26年の作品

警察官を殺して逃げた男が護送されて駅に降り立った。
駅は人だかりである。凶悪犯見たさに新聞を見た人々でごった返していた。
護送している警官が雑踏の中で,突然殺された警察官の家族を呼んだ。
警部がこの未亡人にではなく、子どもに話しかけた。低い声だが、はっきりと喋ったので、一言一言が明瞭に聞き取れた。
 「坊や、この男が四年前にあんたのお父とつさんを殺したんだよ。あんたはまだ生まれちゃいなくて、お母つかさんのお腹の中にいたんだからなぁ。あんたを可愛がってくれるはずのお父とつさんがいないのは、この男の仕業だよ。見てご覧――ここで警部は犯人の顎に手をやり、しっかりと彼の目を向けるようにした――坊や、よく見てご覧、こいつを! 怖がらなくていいから。辛いだろうが、そうしなくちゃいけない。あの男を見るんだ!」
 母親の肩越しに、坊やは怖がってでもいるかのように、眼を見開いて見つめる。そして、今度はしゃくり泣き始め、涙が溢れてくる。坊やは、しっかりと、また言われたように男をじっと見つめている。まっすぐにその卑屈な顔をずっと覗き込んでいた。
 周りの人たちも息を呑んだようである。
 犯人の表情がゆがむのが見えた。後ろ手に縛られているにもかかわらず、彼は膝の上に崩れ落ち、顔を土埃ほこりの中に打ちつけて、人の心を震わせるような、しゃがれた声で自責の念に駆られて、しばらく嗚咽おえつしていた。



にほんブログ村 写真ブログ ネイチャーフォトへ
にほんブログ村
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村
関連記事