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西行こぼれ話 その七-雁がねの歌-

遠野黎明
遠野の夜明け

前略
菅原さん。お元気ですか。
やっと先回,雁風呂の話まで進みました。
西行が平泉まで来たときに,青森の外が浜まで来たのかということ。
来たとしたら西行は外の浜に伝わるという雁風呂の話を知っていたのかという話でした。
結論から言えば,外の浜に行った可能性は少なく,また雁風呂の話を知っている可能性も少ないようです。しかし可能性はゼロではありません。
今日は西行が歌う雁の歌の中に「雁風呂」という美しい話を聞いていたかという痕跡を探ることになります。

平成19年1月21日(日) 172-2s
栗駒山とマガン

  霞中帰雁
46 何となくおぼつかなきは天の原霞に消えて帰る雁がね
  
47 雁がねは帰る道には迷うらん越の中山霞隔てて

  帰雁
48 玉章(たまづさ)の葉書かとも身ゆるかな飛び遅れつつ帰る雁がね

365 くまもなき月の面に飛ぶ雁の影を雲かとまがへつる哉

   船中初雁
419 沖かけて八重の潮路を行く舟はほのかにぞ聞く初雁の声

   朝聞初雁
420 横雲の風に分かるるしののめに山飛び越ゆる初雁の声

   入夜聞雁
421 烏羽(からすば)に書く玉章(たまづさ)の心地して雁鳴き渡る夕闇の空

   雁声遠近
422 白雲をつばさにかけて行く雁の門田の面の友したふなり

   霧中雁
423 玉章(たまづさ)のつづきは見えで雁がねの声こそ霧に消たれざりけれ

   霧上雁
424 空色のこなたを裏に立つ霧の面に雁のかかる玉章(たまづさ)

   寄帰雁恋
600 つれもなく絶えにし人を雁がねの帰る心と思はましかば

959 連ならで風に乱れて鳴く雁のしどろに声の聞ゆなる哉 
                                                   以上山家集
   帰雁
4 いかでわれ常世の花のさかり見てことはり知らむ帰雁がね
                                                   西行法師家集

栗駒星821 012-gs
夏の終わりの天の川

霞や雲に遮られる雁の姿

連なって飛ぶ姿を玉章(たまづさ)になぞらえる様子

かすかに聞こえる初雁の声

夕闇になっても続く雁の飛ぶ姿は烏の羽に書いた玉章(たまづさ)のように見えること

山を飛び越えて聞こえる初雁の声は待ち望んだ雁の鳴き声だったこと


ただ雁の姿と声だけの現在を歌いながら,じっとそこにとどまる思考停止の中からふと立ち昇る何かを待っているかのようです。
写実に徹した西行の歌はどこか歌い上げるというよりも滲み出す風情が静かに感じられる優れた歌が多いです。観察眼の鋭さが違和感なく言葉の連なりの中に凝縮されています。

その点では
77 願はくは花の下にて春死なんそのきさらぎの望月の頃
と願いをはっきりと出してたたみかける言葉でその願いの力強さを出した歌とはまた対極にある雁の歌の写実性も好ましいものです。


ただこれらの雁の歌歌の中に「雁風呂」という言葉や外の浜を感じさせる地名も,雁風呂にちなんだエピソードも盛り込まれてはいないようです。西行が外の浜に行った可能性は少なく,また雁風呂という美しい話をどこかで聞いて知っていたという可能性も少ないようです。
しかし本当はどうだったのかは分かりませんでした。

菅原さん。
お尋ねの件,「西行」「歌枕にある青森の外の浜行き」「雁風呂」というキーワードはつながるかという問題は今日のこの記事で一旦終わりとさせていただきます。あまり実り多いものではありませんでしたが,お許し下さい。何かまた見つかりましたらご連絡差し上げます。長い間ありがとうございました。
呉々もご自愛の程を。


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