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異途への出発

異途への旅立ち 797-2s
異途への出発 八戸線 陸中八木-宿戸

思いついたことはすぐにでもやりたくなるものです。

賢治もやっぱりそういう人でした。
退屈なお正月にもあきたのか,休み最後のチャンスだと思ったのか,とにかく1月5日の夜でした。

「おれ,ちょっと旅行に行ってくるわ。」
そそくさと旅行の身支度を整えている賢治は,いろいろと尋ねられるのを面倒と思ってからか自分から話し始めました。

「何語ってんの。こんな雪降ってる寒い日に」と,母イチがたしなめます。
「どごさ行くの」
「ちょっと八戸に行って三陸海岸を見たいと思ってさ」
「吹雪で汽車止まるよ。大体三陸海岸なんて汽車もねえべさ」
「大丈夫だから」

理由を付ければ何とでも言えるでしょう。例えば地形の調査だとか,教え子が八戸の方から来ていて,北山崎や黒崎という風光明媚なところがあると聞いているとか。

賢治は花巻発,夜の10時近くの汽車に乗りました。
明日の朝早く八戸に着いて,八戸線に乗り換えます。終点は種市です。まだ種市までしか開通していませんでした。賢治は「異途への出発」の最初をこう記します。
月の惑みと
巨きな雪の盤とのなかに(雪が降った後,月が出ていたんですね。)
あてなくひとり下り立てば(どこでしょう。「下り立つ」というのですから八戸,種市)
あしもとは軋り(キックキックトントン)
寒冷でまっくろな空虚は
がらんと額に臨んでゐる
いらないかっこ付きの解説をつけましょう。(雪が降った後,月が出ていたんですね。下り立つという他人のような書き方ですが演出でしょう。1月5日に出ていた月は月齢10.4の月です。これが八戸や種市に降り立つ頃には沈んでいるのです。ちなみに月没は3:12でした。調べました。/(キックキックトントン)/(目の前に大きくぶら下がるようにあるこのホームでの闇,消えない憂鬱,迷い・・・。)
何かをせずにはいられない。賢治はそんな性格でした。
この「何かをせずにはいられない」虫が,正月の怠け者のような過ごし方に待ったをかけたのでした。
こういう虫がいますから,賢治は突飛だと思われる行動も取りました。お経の本が落ちてきて啓示だと思い,家出をする。急に歩き始めて一晩でも歩き続ける。急に金を人にやったりしてえらく気前が良くなる。

旅立たねばならなかったのです。
父政次郎はそんな賢治の性格はとうに分かっていて,「気を付けてな」と一言だけ言いました。

みんなに義理をかいてまで
こんや旅だつこのみちも
じつはたゞしいものでなく
誰のためにもならないのだと
いままでにしろわかってゐて
それでどうにもならないのだ

分かっちゃいるけど,やめられない(植木等風に)わけです。


そこで私も行ってきました。
私も,「分かっちゃいるけど,やめられない(植木等風に)」わけです。
賢治の北三陸の足跡をなぞるように歩いてきました。
(この話は続きます)



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