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夕闇を駆ける

鳴子夜 128-2s
夕闇を駆ける   陸羽東線 鳴子御殿湯-鳴子温泉

この写真を撮ったのは午後6時50分です。実はもう辺りは暗闇の状態です。日没が毎日一分ずつ早くなっています。
感度を上げて,カメラの設定は上限ぎりぎりの状態です。

この時間帯を上手に撮ることがなかなかできません。

林完次氏によれば夕暮れの空の色は

  「少し紫がかったるり色(ラピスラズリ)

   青紫のすみれ色(バイオレット)

   りんどう色(ジェンティアンブルー)

   紫から赤紫のあやめ色(パープル)

   ぼたん色(ピアニーパープル)

   やがて赤みがかった色は闇に吸い込まれるように
   ヘリオトープ

   アメジスト
   くわの実色

   インディゴブルー

   ミッドナイトブルー」
                  林完次『天の羊』から
と変わっていくと書かれていました。
この夕暮れの豊かな色を人の目で見たように再現することは難しいことです。

夕焼けが美しいとき,何か異界に入っていくような思いにもかられます。そんな思いが「ヒステリア シベリアカ」の話にもなっていくのでしょう。訳すとシベリアのヒステリーとなります。
19世紀のロシア,シベリアに住んでいる人間に独特の病気があった。女性が罹るヒステリーではなく男,特に働き盛りの男が罹るヒステリーです。
シベリアの大平原の一角に,ある家族が農業を営んで住んでいる。大概が百姓をしている。見渡す限りの広い耕地を耕して夏の間だけでもかろうじて農業をしている。朝は日の出前から夜は星が出るまでひたすら働き続ける。そのように父も生きてきたし母も生きてきた。わたしもそう生きることが当たり前だと思って生きている。都会になど出かけたこともないし興味もなかった。その日も落日まで働き続けて男はふと顔を上げた。シベリアの大地に大きな夕陽がかかっている。なんと大きな赤い夕陽であることか。男はみるみる沈む真っ赤な夕陽を憑かれたように見入ります。
すると突然心の中に不思議な衝動が湧き上がってきて,彼はポッと持っていた鍬を捨てて,夕陽に向かってトコトコと歩き始めた。どんどんどんどん畑を越え,林を越え,草原を越えてひたすら憑かれたように夕陽の方向に歩き続けるのです。どこまで行っても果てがない。やがて行き倒れるのです。またオオカミにでも食べられてしまう。
この話を私は五木寛之の「漂泊者の心」で読んだのですが,印象深かったのか,村上春樹の「太陽の南 国境の西」にも出てきます。「太陽の南 国境の西」は1991年頃に書かれたものらしいですが,このように書かれているようです。
「そしてある日、あなたの中で何かが死んでしまうの」
「死ぬって、どんなものが?」
彼女は首を振った。
「わからないわ。何かよ。東の地平線から上がって、中空を通り過ぎて、西の地平線に沈んでいく太陽を毎日毎日繰り返して見ているうちに、あなたの中で何かがぷつんと切れて死んでしまうの。そしてあなたは地面に鋤を放り出し、そのまま何も考えずにずっと西に向けて歩いていくの。太陽の西に向けて。そして憑かれたように何日も何日も飲まず食わずで歩き続けて、そのまま地面に倒れて死んでしまうの。それがヒステリア・シベリアナ」
僕は大地につっぷして死んでいくシベリアの農夫の姿を思い浮かべた。
「太陽の西には一体何があるの?」
今日は夕焼けになるでしょうか。



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