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営業マン賢治の宮城県めぐり

運動会の夜2-2-1s
石巻線 賢治も石巻から汽車に乗り,この景色を楽しんだだろう

今日は宮沢賢治が東北砕石工場に勤めるようになってからのモーレツ営業のひとコマを紹介します。
昭和五年(1930)賢治34歳の4月に東北砕石工場主の鈴木東蔵が花巻の賢治の家を訪れてから彼の営業マン人生は始まります。この頃の賢治の手紙から,32歳の日照りの夏から寝込んで一年半の後,仙台で仕事をしようとする計画があったようです。そんな計画の最中で鈴木東蔵は賢治に助力を乞うことになったのでした。そして昭和六年いよいよ彼は自分でも言うほどの「やけくそな」しらみつぶしの営業を始めたのです。

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石巻線 賢治は石巻から帰り道石巻線に乗り,小牛田から本線に乗り換えて花巻に帰った。

昭和六年のゴールデンウィーク。賢治は宮城県に入っていました。そうでなくても仙台には良く出かけていましたから特別なことではありませんが仕事で来るようになってから,ちょっとはらはらするような日程の営業が続きます。それくらい余裕のない日程で営業をこなしていったのです。書簡などから察するに日程は次のようです。

4/18 仙台泊 翌19日仙台,小牛田,古川
5/4  仙台泊 翌5日仙台,石巻,河南町,小牛田
5/10 仙台泊 翌11日仙台,岩沼,仙台泊 翌12日小牛田,築館
9/19 小牛田,利府,仙台 仙台泊
それで今日書きたいのは5/4の仙石線や石巻線に乗ったことについてです。5/5の「仙台,石巻,河南町,小牛田」というルートです。実はこのルートは前々から考えていたことだったのです。
[327] 1931年4月13日 鈴木東藏あて 封書(封筒ナシ)
  四月十三日

拝復
貴簡難有拝誦仕候 亦昨日は父参上致し色々御世話様に相成候趣父
よりも厚く御礼申上候
(中略)

三、宮城県小牛田の県技師工藤文太郎氏を通じて農務課に改めて交渉のこと。(泣きを入れることを含む。)

四、同氏を通じて斉藤等の大地主に利害を説きて大量使用を勧むること

五、小牛田附近の白兵戦(組合)
ここで気をつけたいのは河南町で「斉藤等の大地主に利害を説きて大量使用を勧むること」という部分です。この斉藤等の斉藤は「斉藤善右衛門」のことです。斉藤善右衛門は「農地改革前は、山形県・庄内平野の酒田本間家に次いで全国第2位の地主といわれた、宮城県・仙台平野(仙北平野)の斎藤家は、桃生郡前谷地村(現・石巻市)に田畑約1500haを所有する大地主であった。その当主である斎藤善右衛門(第9代、1854年 - 1925年)は酒造業や質屋も営んでいたが、1892年(明治25年)第2回衆議院議員総選挙で当選して代議士となる。1910年(明治43年)に斎藤株式会社を設立した。」



石巻線夜-2s

賢治は小牛田の齋藤報恩農業館にいる工藤文太郎技師が高等農林時代の先輩ということで訪ねて話をしているうちに大地主の齋藤善右衛門を訪ねてはいかがかとなったのかもしれません。もちろん工藤が勤めていた齋藤報恩農業館自体が齋藤善右衛門の資金から成り立っていたわけですから。紹介状か何かを書いてもらったのでしょうか。
そして何よりも齋藤善右衛門に会ったのでしょうか。興味が湧くところです。
そのことは次の書簡を見るとわかります。
昭和6(1931)年5月5日付け鈴木東蔵宛 書簡337.338
午前10時
私は只今より広渕沼開墾地に高野技師を訪ふべく御座候 尚関口氏には本日も面会致し兼ぬる次第には御座候へ共別に信書を以て
どうも前谷地の齋藤善右衛門の所へまっすぐ行ったのではなく,近くの広渕沼開墾地にいた高野技師に会いに行ったようなのです。
この高野技師という人は名前が「高野一司(かづし)」と言い,賢治とは岩手国民高等学校の開校(大正15年1月)から懇意であった人でした。この岩手国民高等学校で賢治は農民芸術を担当し,あの「農民芸術概論綱要」を元に講義したことは有名です。その時の生徒の面倒一切を見ていたのが岩手県で最初に社会教育主事になった高野一司だったのです。この高野一司氏が岩手県から派遣され,宮城県の前谷地,広渕沼開墾地の所長として昭和2年から赴任していたのです。

さて賢治は前谷地の日本屈指の大地主である齋藤善右衛門のところには行かなかったのでしょうか。

行ったのです。
後日鈴木東蔵に「工場に前谷地の齋藤善右衛門からの注文はありませんでしたか」と問い合わせているからです。

自分でも「やけくそ」というこの営業ぶりははらはらします。
ただその奥に,彼の営業ルートの取り方からして鉄道好きの賢治の姿が浮かび上がって来ます。

この続きはまた書きます。


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