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新・遠野物語-夕焼けの願いごと-

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夕暮れの願いごと

そろそろ雨が待ち遠しいと思われる日が続き
夕焼けが妙に赤く感じられるようになりました。
父や母も日照りの気配が色濃くなるにつれ田の水回りが気がかりで晩方遅くまで田にいるようになりました。
たつは一人で外に出て父や母の帰りを赤黒くなった夕焼けを浴びながら待っていました。その日はまた遠くの夕立の雲が残り真っ赤な帯を幾重にも夕空に残していました。
すると追分へと続く天王さんの祠の辻から背の高いおじさんと思えるワイシャツ姿の男がたつの方へ自転車に乗ってやってきました。
町の方に戻るのに道を違えて来たのです。町への道を教えてあげるとその背の高いおじさんはお礼にとたつにお札ぐらいの大きさの赤い紙切れを渡して言いました。
「この紙にあなたの一番の願いごとを書きなさい。そしてそれをこの堀に流しなさいね。」

たつはこっそりと赤い紙に書きました。
「死んだ弟に会わせて下さい」
それが一番の願いごとでした。弟は2年前の夏に七つという歳で傷寒で死んでしまいました。その日以来弟のことを思わない日はありませんでした。夕暮れには必ず天王さんに行って弟があの世で幸せに暮らしていることを願って手を合わせます。
「死んだ弟に会わせて下さい」と書いた紙をさっき堀に流しました。少なめの水が赤い紙を流していきました。

その夜にたつは弟の夢をみました。天王さんの祠の陰からにこっとしてひょっこり顔を出す弟が出てきました。その弟はたつを喜ばせようと顔こそ笑っているようでしたが目の奥に寂しげな哀しさを秘めていることに気付きました。

翌朝たつはさっそく天王さんに行ってみました。そして祠の陰をそっと覗いてみました。
そこには若く白い一輪のヤマユリの花がすっと立っていました。たつは驚いて嬉しくなりそっと山百合を撫でました。
するとたちまちたつの前に山百合の高い香が立ち昇りました。



ここに出てきた「たつ」は以前にも登場していた女の子です。よろしければお読み下さい。
弔いの声
弔いの歌-たつの場合2-」

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