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新・遠野物語-勝源院の場合-

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墓守の朝 今朝8/9撮影

勝源院は山の上である。
御社は海に開け辰巳(南東)向二間半作,社地後ろに杉の林を背負っている。
四代前の慶長年間に城下の橋の用材として藩主に杉を献上し,御朱印を頂戴した。そして褒賞として850文(八石五斗四升)を賜り,以来代替わり毎に御朱印をいただき勝源院も同じく御挨拶に出掛けたのはもう三年も前のことであった。

勝源院はこの寄付地以外には百姓地を持たず人数帳には載っているが自分を百姓とは思っていなかった。実際今まで人足,御郡役,高がかりの手伝い,御貸上等も命ぜられることはなかった。しかし昨年の五月,上御手伝として一貫(一石)に一歩の割合で肝入長三郎方で割り当て,小肝入太兵衛方より組頭を以て申し来った。御寄進地でもすべて申しつけるというのなら出すが,他の地方と異なる割り当て方と聞いたので一応問い合わせた。その勝源院に代官所から呼び出し状が届いたのは稲刈りも終わり,朝晩の寒さが感じられる十月も半ばに入ろうという時期であった。自分の問い合わせに対する答えが下されるのであろうと勝源院は早速正式な法衣着け代官所へ出かけて行った。

ところが代官所の対応は意外なものであった。
「百姓前を以て尋ねる故,袈裟を脱げ。御貸上延引の段(引き延ばしている理由)を述べよ。」
御貸上延引(延滞)の段と聞いて勝源院は愕いた。いつの間にか滞納扱いになって,罪状が付きそうな雰囲気で,理由如何では許さぬという勢いである。」

「私は自分を百姓とは心得ていません。今までも人足,御郡役,高がかりの手伝い,御貸上等も命ぜられることはありませんでした。」勝源院は心を落ち着かせるようにゆっくりと言った。
「いいや少しでも耕作しているのであれば百姓だ。百姓の身分として扱うのであるからとにかく袈裟を脱げ。」
「この衣鉢は本寺より許されて着用しているものです」
勘に障ったのか代官所の声が図太くなった
「いいや。お前は田畑を耕して居るではないか。それは百姓と同じ扱いになり,人足,御郡役,高がかりの手伝い,御貸上等の義務も生じてくるのだ。」
衣を脱がぬとどうなるか分からない様子だったので,袈裟を脱ぎ,改めて御朱印賜る来歴を述べた。しかしその口上はかえって代官所に渋面をつくらせることになった。また言い訳かと取られたのである。

勝源院は加持祈祷をしたり護符を配ったり,神楽を舞って寄付を受けたりしながら生活していた。拝領した土地に野菜を植えて細々と生計を立ててきた。一応直院という本山からの保証を続けているプライドもある。収入の割合に応じて本寺に権利料も滞りなく払っている。村の講中の者が出羽三山にお参りをする場合は,責任を持って世話をしたり,関所手形の手配等を手抜かり無く行なってきた。村のために力を尽くしてきた。

「今後は村人のためにも,人足,御郡役,高がかりの手伝い,御貸上等,村人と共に励まれることだ。」
これが結論であった。

勝源院は脱いだ法衣を整え,代官所を後にした。
勝源院の饅頭のお土産に一時喜んだが,うなだれた顔をした父をたつは心配そうに見つめた。



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