2022/05/27
ラムサール条約の伊豆沼って何だったか3―ふゆみずたんぼの行方―
まずお知らせです伊豆沼読書会開催について
日時 6月5日(日)午後1時30分~
場所 伊豆沼・内沼サンクチュアリーセンター淡水魚館 会議室
内容 先回話し合われたことから
伊豆沼八景選定作業等
おいでください。お待ちしております。

霞む伊豆沼
蕪栗沼がラムサール条約に加盟したのは2005年(平成17)11月8日で,今から17年前のことでした。
何といっても蕪栗沼の場合,伊豆沼との違いは同じラムサール条約登録でも「その周辺の水田」も指定区域に入れたことでした。これは世界初で,人が管理耕作する土地「水田」も守られるべき環境であると世界に認めさせたことでした。もう一度言いますが,「水田」が条約に指定されること自体が最も先進的な日本の農業の姿を世界に指し示すことになったのです。つまり「水田」耕作が世界の最先端の未来をつくるということです。これは画期的なことです。そして伊豆沼での反省が蕪栗沼の農業実践の大きな礎になったことを物語っています。伊豆沼では人間は何も手を付けてはいけないという反省が20年を経て,人が環境を保全するのだ,人は積極的に保全に関わるべきだという環境に対する20年の考え方の進化が条約締結の意味となりました。「ワイズユース」です。「ワイズユース」とは「生態系の自然財産を維持し得るような方法での人類の利益のために湿地を持続的に利用することである」と定義されています。そのワイズユースの典型的な枠作りを蕪栗沼とその周辺の水田で実現させようということです。
その方法が「ふゆみずたんぼ」という方法です。そしてその成果の確認は水鳥たちが行います。私はこの「ふゆみずたんぼ」を普及させようとしてきた日本雁を保護する会の呉地正行氏と大崎市の行政方,そして関係諸氏のたゆみない努力に敬意を表します。

苗に光差す
ご存じのように「ふゆみずたんぼ」という取組は,稲刈り後の冬期間に田に湛水させて,過密すぎるマガンの塒や生活圏を分散させようとする人間にとっても自然にとっても良いという一挙両得の面があります。この「ふゆみずたんぼ」の試みは2002年(平成14)伊豆沼2工区,平成15年伊豆沼3工区と伊豆沼・内沼の周辺でも実験的に行われてきました。ふゆみずたんぼの効用は,簡単に以下のようにまとめられると思います。
①湛水化で水辺の生き物や植物が豊富になり,
②望ましい栄養ある土壌へと改良させることができる。
③たんぼの湛水化によって過密な状態になっている水鳥の生息範囲を分散化させて,水鳥にとっても適切な環境を整えることができる。
しかし,このような先進的な試みの「ふゆみずたんぼ」がどうしてか,あまり定着せず,試行に留まり,このように制度設計を改善しながら蕪栗沼へ場を移して深化させようとしているのが現状なのです。耕作方法の問題や条件など,どうやら「ふゆみずたんぼ」が定着しないのには課題があるようです。その課題を下にざっと書いてみます。
①収量が落ちる。
「ふゆみずたんぼ」は無農薬無化成肥料という最も完成された有機栽培を目指します。現在の農法より当然多くの手間がかかり収量も落ちます。しかしその成果は長くやればやるほど成果ははっきりとした形で現れてきます。10年間有機栽培に取り組んだ田 では反当たり7-8俵まで収穫できていると言います。と言っても,田植え後の田んぼに立ち入らない方がよい時期に有機肥料を撒いたり,米ぬかを入れたりする作業は多大なる負担を農家に強いることになります。途方もなく,手間がかかりそして減収になるならば自分からそのような農法に転換する農家はいないでしょう。これに水管理の問題で深水管理にして雑草を抑えるなどの手間も必要です。実際に「ふゆみずたんぼ」農法のノウハウは殆どの農家には情報として行き渡っていない現状もあります。
②ブランド認証されていないので落ちた収量を高めに設定し,安定的に売ることができない。
③補助金等の採算に見合う保障の不足
手間がかかり,減収になる農法をどう補うかということも大切です。例えば採算性が取れるように補助金等の保障制度を設けることや落ちた収量分を補う無農薬無化成肥料のブランド認証を行い,高めの設定で安定的に売るサプライチェーンの構築なども必要になってきます。しかしこの方策は現在かなり進んでいます。
④鳥の食害による減収 ⑤水利権関係
鳥の食害については古くから農家で死活問題として嘆かれてきた大きな問題でした。蕪栗沼のある田尻町では1998年当時からふみずたんぼに取り組んできて食害についてはその2年後の2000年に一粒でも鳥による食害に見舞われた稲はすべて保障するという条例を出しました。しかし申請書類等が煩雑すぎて制度が正しく機能していない点も農家から指摘されているようです。
また冬期に湛水する水を安定的にどこから引いてくるかという水利権に関する問題もあります。

田んぼにいたカブトエビ おととい5月25日撮影 新田大形地区
以上ふゆみずたんぼの現状をまとめてみましたが,現在大崎市の取り組む制度改善,補助金制度等の制度改善がかなり進んでいます。人間の手による水田という自然保全と渡り鳥たちとの共生がどのように実現するか,望ましい農業のこれからも期待できる「ふゆみずたんぼ」であることを祈ります。

霧の朝の畦
最後に「ふゆみずたんぼ」によって湛水域が拡大することで,マガンなどの現在の過密状態を改善できることが大切です。調査によりかなり改善はされてきていますが,実際にマガン達が「ふゆみずたんぼ」を塒(ねぐら)として利用するための条件はかなり厳しい面があります。というのも警戒心の強いマガンなどが水があるからといってすぐそこを塒にする程の習性をもっていないのです。伊豆沼前沼,蕪栗沼白鳥地区等の事例を踏まえれば,そして現在長沼などを塒にしているマガンから考えると,沼本体から連続した水域をつくりながら冬期湛水域を拡大させることはマガンを安心させる材料になるでしょう。マガンの塒化から考えると,ハス田も採算性に優れた転作ではないでしょうか。現在でもハス田が増えています。ハス田であればまさに水域が拡大され,農家にとっても採算が十分に取れる「ふゆみずたんぼ」となるのではないでしょうか。

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