2022/11/25
ネフスキーは,佐沼で何を調べたか

冷えた朝 内沼
先回はニコライ・ネフスキーが大正九年八月二十八日と二十九日,佐沼にやって来て高橋清治郎の手助けを受けて,口寄巫女(オカミン)に会い,調査した。夜は高橋宅に一泊した。口寄巫女の両手にはオシラサマがあった。オシラサマが神を降ろす重要な依り代であったのだ。ネフスキーはこの時「オシラサマ」の研究に熱中していて,大正九年の2月以来から調査を重ねていた。佐沼での調査が終わり,遠野の佐々木喜善を訪ねて小樽へ帰った。そしてすぐの九月九日,髙橋清治郎にお礼の手紙を書いている。(下図)


そして史料番号(4)の九月二十七日付けで更に写真を撮って送ってもらう旨の手紙をよこしている。

さて,佐沼に来たネフスキーは口寄巫女(オカミン)に会って,何を見、何を感じたのでしょうか。
九月二十一日付の柳田國男への手紙に書いてあります。ちょっとオシラサマのその部分を読んでみましょう。
(前略)一、佐沼町黄金町にゐる伊藤さよのもの
御神体は一本しかない。真竹でできている。(以下も皆同じ)もう一本があったがゆずりましたって。御衣裳は五色の絹(毎年一枚ずつ掛ける・重に赤い)。本当は無地ですが,模づきあるのは皆あげられたものだ。オシラサマは神づけの時の幣束を入れたものです。祈念の時之を用ゆ。仙台ではオシラのことをオトートサマといふそうです。
一、佐沼町松栄寺内の遊佐かめよのもの二体。こしらへ方は同様。祭日は正月十六日。その日には新しい御衣裳の一枚を掛ける。オシラサマは淤母陀琉(おもだる,か?)の命と訶志古泥(かしこで,か?)の命である。あるオカミンが廃業してオシラを川へながした処が,さかさに流れたから(下流の方へ)又拾っておわびしましたと云う話もありました。かめよのつき神は不動尊です。
一、佐沼町丸の内、永浦たまきのもの
オシラは二体。御衣裳は全部モスリン。御祭日は旧暦の十二月十七日(新しい切れ一枚を掛ける)。御祈祷の時に之を用ゆ。その時つき神のお守り(お札)を出す。オカミンのつき神は塩竃大明神である。
一、南方村字十三間町の高橋綾寿一の家にあるもの(右の人はめくらです。妻はオカミンだったが先年死んだ)
切れは五色の絹。頭は秘密になって居りますが実は頭の方へ縫い針を入れるのです。オシラはイザナギとイザナミだそうです。(右は高橋翁の調査に依る)
一、佐沼町横町にゐる高橋みののオシラ
体数―二体。長さ―一尺斗り。木―真竹。きれ―紅い絹。(きれの)長さ―二尺四寸(二つに折って掛けるもの)。幅―一寸五分位。
両尖は裂いてある。これを頭から掛けるので頭が見えません。頭は鞠のようでは円くって平つたいまめです。恰も一銭の銅貨を二枚重ねて竹の上へ乗せた様に見える。則ち(図の如く)。縁日は十月十七日と正月十七日。
頭の方へはハナエの三四粒が入ってゐるそうです。オシラは八百万神を代表するものだそうです。神憑(かみつけ)の時に持っていた幣束に師匠が絹の切れを結附けて与へたものだそうです。右のオカミンの憑神は木花さくや姫だそうです。憑神祭は毎月十二日に行ふ(重に三月と十月)。稀にオシラの只一本だけを有っているオカミンもある。之は宗旨によって違うのだそうです。右のオカミンの宗旨は日蓮宗です。
オカミンと云う言葉を人民が使うだけ、彼等連はお互いにミコと云ふ名前で呼ぶそうです。
高橋清治郎の有っている宝永二年の記録には和歌と書いてあります。(伊能氏の話では遠野でもイタコを丁寧に呼ぼうとする場合、必ずオワカサマと云ふそうです)。
一、佐沼町横町にゐる目々沢サダヨのオシラ、やはり二本。作り方は前と同様です。少しく力を入れると頭が動きます。竹の棒に、確かに御幣が巻き付けられてゐる。下から見ると頭の中へ真綿が入ってゐる。オシラの祭は正三九月の十七日。正月の祭には必ず絹一枚を掛ける。オカミンの憑神は大泉の千手観音だそうです。(憑神祭は正月八日と九月八日)前祈祷の時はオカミンの前に供えてあるオハナエへオシラ二本を挿して弓をたたき,数珠をすりながら降ろしますのだそうです。
一、佐沼町黄金町にゐる伊藤さよのもの
一、佐沼町松栄寺内の遊佐かめよのもの二体。
一、佐沼町丸の内、永浦たまきのもの
一、南方村字十三間町の高橋綾寿一の家にあるもの
一、佐沼町横町にゐる高橋みののオシラ
一、佐沼町横町にゐる目々沢サダヨのオシラ、
たった一日で六人もの巫女を調査している。二月から調査を依頼されていた高橋清治郎の支援も大きかったと思われる。
この話は続きます

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