2022/12/05
オシラ遊び2

山道に光差す
先回のオシラ遊びの様子の続きです
オカミサン(巫女)が両手にオシラサマを持ち,人形遣いのように動かしながらオシラ祭文を唱え始めました。
長者の一人娘が馬と仲良くなり,その果てに馬は殺され,皮を剥がされます。
「手に取ればこそ手になづーて遊だ神かな
そもしもしらわの御本地 くわしく読み上げたのみたてまつる
昔 まんの(満能)長者とてありかの長者こと姫君一にもたせたもたのもだてたも
ひとり姫ことなれば昼はかげんのざしき
夜はかいごの遊び いげをかじげを かぎりなし
しかりに 満能長者の厩に
千だん黒毛 いつの名馬とて つながせたも
かくて 歳月ふろほどにたつ姫君もー 十六歳にならせたもとゆう
ときは つかじきいかに にょうぼたつ 今年十六歳になりよけば
いままで 馬屋へおりて名馬 見物いたしたりことはなし
父母に おんめいはからいしのばせよとありければ
ざしきあいだにおんことてやいのびょうぶでしのばせたもなり
かおーどいじくしくめいばもさらになし 人間のみみなら 一夜の契り
ほめびきぞ あいそーつさいどゆうべきものとて 千だん黒毛
かすみのぶつて三度なでたせたもう」
男オシラは馬,女オシラは一人娘。やがてオカミサンの腕の中で小刻みにほろかれる度に二人のオシラ神はかすかに息をして,やがて二人の恋の炎が燃えさかっていく様子が分かる。その悲しい恋が女達の心にはっきりと浮かび始めた。何度聞いても前聞いた時とは違っている。年を重ねる毎に恋の情緒は激しくなり,悲しみは一層頭いっぱいに広がってくる。
八才になった若にもその遂げられることのない恋が分かる。この世には遂げることのできない命があることも八才なりに感じられる。女オシラ神が小刻みに身体を震えて泣くときは若も一緒に泣くのだと,心構えもはっきりしていた。オシラ祭文はいよいよクライマックスへと走っていく。若は母親の手をしっかりと握り,悲しみに耐えようとした。
「怒り罵り蘆毛の駒を引起させ ひらくべてうとはね落とし 皮を剥いで戌亥の方に 洒ざ給候へければ 不思議や其皮頗りに動いて 大地へ揺り落ち 玉世の姫の寝間へ飛び くるくると娘を捲きしめ給へば 折節まき風しきりに起りて 虚空へ捲上げ行方知れず候ひければ・・・」
泣いてこの世を去らんという者は,なぜにこれ程悲しいものか。

南三陸町志津川新井田オコナイサマはオシラ神
岩手県ではオシラサマは元々オコナイサマと呼ばれ,目の神様でもありました。
オシラ遊びの流れとしては
1 祭壇づくり,お供え物を用意し,オシラサマを祭壇に祀る
2 オセンダク 新しい着物を着せる
3 イタコのオシラほろぎ(オシラ祭文) ほろぎは「(オシラサマを持って)揺り動かす」という意
4 イタコの託宣 (占ってもらい,気を付ける月日などの指導を受ける)
5 イタコによって,オシラサマが身体の痛いところや具合の悪い処をさすってもらう
6 会食,オシラサマをおんぶしたり,撫でたりして喜んでもらう
柳田國男はこの独特な「オシラ遊び」の存在についてその意図が理解しかねる言い方を「大白神考」で何回かしています。
確かに簡単に神様に触ったり,神様に喜んでもらう,遊んでもらうためにだっこしたり,おんぶしたりすることは神事ではあまり多い事ではありません。例えば,イタコの指導でこのような「オシラ遊び」が行われるようになったと考えれば,なんでもかんでも理由をイタコやオカミサンの行法にこじつけてしまうという怖れもあります。簡単に理由付けを行えば,本来の「オシラ遊び」が発生してきた姿も見えなくなってしまいます。
このオシラサマ信仰は,実に複雑に信仰の様相が組み合わされ,ハイブリッド化しながら伝えられ,進化を遂げてきたと考えられます。ただこれ程広い範囲で行われることになったのは,やはりイタコの存在が大きいとも言えそうです。
私が想像逞しくしてみると,どうも人形(ひとがた),ヨンドリ(秋田),天兒(あまかつ)や這子(はいこ),オシラサマ,薩摩雛(さつまびな)などの木偶,土偶類のクグツ人形(傀儡)を連想させる。

天兒(あまかつ)と這子(はいこ)
イタコがオシラサマを両手に持ち,オシラ祭文を唱える様は,まさに傀儡師(くぐつし)そのものの技法ではないだろうかとも思わせる。
ではお雛様とはどう違うのだろうか,この辺も上巳の節句の行法が日本古来のクグツによる信仰と溶け合いながら日本独特の信仰に発展してきたとも思わせる。女達と巫女,女達のひな祭り,そして女達と山の神信仰とバリエーション(変異)を繰り返してきた形式がオシラサマ信仰,そしてオシラ遊びの中に,女達の幸せへの願いが脈々と受け継がれていったのではないだろうか。
この話は続きます

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