2023/11/10
柳田国男「先祖の話」から「二つの実際問題」

朝の漁
柳田国男の「先祖の話」は,よく新聞の社説や8月の終戦の日に合わせて,取り上げられまた引用されているが,思うに何と言っても最後の八十一話目「二つの実際問題」こそが柳田の言いたかったことであった。その「二つの実際問題」とは,「家というものの理想は外からも内からもいい頃加減にほったらかしておくわけにはいかぬのである」という家の存続の問題が一つ。もう一つは「少なくとも国の為に戦って死んだ若人だけは何としても無縁仏の列に疎外しておくわけにはいくまい」という戦争で亡くなった方への実際的な「まなざしの問題」であった。つまり戦争で亡くなった,家を引き継ぐべき若者達の希望がさっぱりと失われてしまったことに立ち返らないといけないということだ。若い霊が安まることなく,徘徊をして,家にも帰れず,生き残った家族を心配に思うようでは,心安らかにあの世に赴かしめる途(みち)ではないだろう。
これは必ず直系の子孫が祀ることだというだけでは,済まされない問題である。長男にしろ,次男,三男にしろ,あの一代は戦争があって,亡くなってしまったという一代人(いちだいびと)の思想だけでは片付けられない問題なのだ,と柳田は言う。
もうたまにしか行くことのない墓参で,改めて戦争でなくなった先祖がいたと気付くだけでは,おのれの幸せも虚飾であろう。何の犠牲の上に自分は生きていられるのかという,遠い祖先からの脈々とした営みに対する感謝や尊敬なくして,自分の人生はあり得ないのだ。
家の制度を,いたずらに自分の自由を阻むものだと考えたり,親の干渉をただうざいと感じて逃げ続けることで,当人の生は充実するものだとも言えないだろう。そういった自分だけの,自分一代だけの生き方で,戦争を忘れ去ろうとすることは死者を死者として更に遠ざけていくことになる。

昨日,11月9日のガンの飛びたち
愛しいと思われるひとは,絶えず人の心に呼び戻される
呼び戻されたひとは,喜んであなたに寄り添い,あなたを守るだろう
先祖とはそういう存在で,あなた自身を絶えず支え続けてくれる
こんな想像力もあなたの人生を豊かにしてくれると思う

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