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詩集 いのちの芽

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詩集 いのちの芽

このところ毎日少しずつ本当に丁寧にこの詩集を読んでいる
一度に読むにはもったいなく,少しずつ大事な宝物にそっと触れるように読んでいる
そっと手に取りたいと思える詩群なのだ
ふかぶかと繁った森の奥に
いつの日からか不思議な村があった
見知らぬ刺(とげ)をその身に宿す人々が棲んでいた (後略)
「伝説」厚木叡
心地よいに自然にすっかりと埋もれた中,かすかな心の叫びをそっとあげている詩が多い。わたしはこんなそっと世界に触れようとする詩が好きだ。
同じ人の「路」という詩は,こう始まる。
村のなかで私はその路をひそかに愛した。
プラタナスと銀杏の若い並樹にはさまれ,遠く
まっすぐに見透しになった路。その遠景にうすみ
どりの絵具皿を溶いたように山原がみずみずしい
膚(はだ)の一部をためらいがちに覗かせていた。
いつ見ても人の影も疎らで,物思うに適していた。(後略)
この後並木の間から人形のような次々と生まれ出て,彼方の靄の中にのろのろと吸われていく幻想を見る。

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エナガ

いつからなのか 何故なのか知らないのです
私の唇は突然歌を喪ってしまい
私の喉はわたしの体にあいたまっ黒なただの洞穴になってしまい
私の中におやみなく湧きいでた美しかったもろもろの
思念たちは(後略)   同「唖の歌」

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今朝12月2日のガンの飛びたち

暖流
            伊藤 秋雄
ひとりは ひとりの苦痛が
幾らかでも
小康(やす)らぐようにとつとめ
病み衰えた ひとりは
冷えるからもう帰ってもいいと
ひとりを気遣う

ふたつの 心とこころが
とたんに ばったり 衝きあたり
美しい涛(なみ)しぶきとなって
崩れ
そのまま暖流に乗って
冬の海を流れて行った

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今朝12月2日のガンの飛びたち

風景
                國本 昭夫

三日月がほんのりと武蔵野に

襤褸をまとった女が通っていった

風は凪いでいた。

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西日を浴びて

芽  
                 志木 逸馬
芽は
天を指差す 一つの瞳

腐熟する大地のかなしみを吸って
明日への希いにもえる

ひかりにはじけるもの

芽は渇いている 餓えている
お前はもはや誰れのものでもない
(廻転する地球の風にゆれる
 花のものだ)

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今朝12月2日のガンの飛びたち

この詩集「いのちの芽」は,全国のハンセン病療養施設にいる73人の詩を集めて1953年に発刊されたもので,70年振りに国立ハンセン病資料館が復刊させた詩集です。この詩たちを読むと,実に素直で,苦しい中でも光差す方を見上げようとする生きるという姿が浮かび上がって来ます。
私は全国に7か所あるというハンセン病療養所の一つ,東北新生園がある新田に住んでいます。子どもの頃は山深い新生園によく遊びに行ったものでした。緑深い森の中で,秋の落ち葉敷く山道で,桜の花びらが舞い落ちる中で,私は散歩する患者の方々と挨拶を交したことを憶えています。この詩集を大切に読みたいと,そっと手に取るのは,埋もれてしまった子どもの頃の思い出をそっと呼び戻そうとしているからかもしれません。
北條民雄「いのちの初夜」を読んだのは,高校を卒業した頃でした。


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