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露頭にて

雨の夕方12.3 108-2s雨の夕方
 犬の散歩をしていると,犬がきまってぴたりと止まり,どうにも動かなくなる場所がある。
 その時,うちの犬は何を見ているのだろうか。
 わたしは,犬には見えていて,自分には見えていない相手に怖れに似たものを感じている。
 そのとき私は「時を超えたこの場所の露頭」に立っているらしい。
 ご存じのように,露頭とは過去の地層がすべて現れ出た場所をいうから,うちの犬が見ているのは,この場所の何十年,何百年前の地層の中に折りたたまれた「この場所」を見ているのかもしれない。この場所で一体何が起きたのか。それを思う度慄然とするのである。
雨の夕方12.3 127sss雨の夕方
 「葛の花踏みしだかれて色あたらし。この山道を行きし人あり」
 折口信夫のこの作品がこの頃よく頭に浮かんでくるのを止められないでいる。この歌は葛の花が踏まれている様子からしてかなり新しく,誰かがこの山道をついさっき通っていったらしいという歌だが,濃密な香りが漂ってくる。つまり事を起こした主(ぬし)は今いないが,不在故の存在の強烈な印象が迫ってくる。まるで残り香のことを歌っているようで官能的でもある。

 不在というものが,存在している以上に存在感を表すことがある。
 うちの犬はこの場所の,現在は不在として現れ出ている過去の地層を見ているのだ。そしてその露頭に見えている過去の地層の姿に怯えている。わたしには現在のこの場所の道路しか見えていない。

雨の夕方12.3 037s雨の夕方
 最近,吉田文憲「顕れる詩-言葉は他界に触れている-」を読んだ。この詩人の本は宮澤賢治関係でも読んだことがある。確か,今年の宮澤賢治賞を受賞していたと思う。
顕れる詩―言葉は他界に触れている顕れる詩―言葉は他界に触れている
(2009/11)
吉田 文憲

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 この中に「吉増剛造,複数の声・多層な声」という章があっておもしろく読んだ。吉増剛造は現代詩の中では有名な詩人であるが,異色な詩人でもある。誰も彼のような書き方はできない。デビューから彼の詩を読んできた私は,切っ先鋭い彼の言葉に他にはない何かを感じ続けてきた。
 そして吉増剛造がどうやらうちの犬が感じている「この場所」の近づいてはいけない畏れと同じものを感じ続けている,そのことを書いているのだと直感した。今見えている現在の「この場所」ではない,それらが崩れて露出して見えている露頭の崖下にいるのだ。その崖下でうちの犬はきまって恐れおののいて止まってしまうのだ。引っ張っても駄目である。必ずその場所は迂回して通る。何もない普通の道路に見える「この場所」が,とんでもない過去の地層を持っている。不在故にその強い存在に悩まされている。

 露頭にて,折りたたまれて不在に見える場所に沈黙の声だけがこだましている。
 景色を見るのではなく,景色を聞ける写真は黒々とした露頭を持っている。

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コメント

Re: 露頭・・

> 路頭・・・久し振りに聞きました。
>
> 科学的には、CTやMRIの世界です。
> ここから、その地盤のちょっとした履歴が書けます。
> (地学では、クリノメーターと岩石ハンマーの世界です。・・・私も持ち歩いています。)
>
> 「不在は存在を意識づける。」・・・なるほど、そうですね。
>
> 「オオタカ」ですかね。
> ・・・この間、新田の観察館近くで、カラスにしつこく追われているのを見ました。
>
> 思いを込めて見る「道」も、いいものです。
>
> 気仙沼行き、あっという間に4日過ぎました。
> 昨日は勤務したので、今日はお休みです。
> でも、10時現在、あちらは吹雪いているようです。 
> (風邪・・大丈夫でしょうか。)

気仙沼での仕事ご苦労様です。
吹雪ですか。
気仙沼も,少しでも暖かく冬を越すことができるといいですね。

露頭・・

路頭・・・久し振りに聞きました。

科学的には、CTやMRIの世界です。
ここから、その地盤のちょっとした履歴が書けます。
(地学では、クリノメーターと岩石ハンマーの世界です。・・・私も持ち歩いています。)

「不在は存在を意識づける。」・・・なるほど、そうですね。

「オオタカ」ですかね。
・・・この間、新田の観察館近くで、カラスにしつこく追われているのを見ました。

思いを込めて見る「道」も、いいものです。

  

  ありがとうございました。


気仙沼行き、あっという間に4日過ぎました。
昨日は勤務したので、今日はお休みです。
でも、10時現在、あちらは吹雪いているようです。 
(風邪・・大丈夫でしょうか。)







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